悪妃になんて、ならなきゃよかった
 すると、先程ヴィオラを熱い視線で見つめていた男が、戦う番になった。

ーーさっきの人だ。
そう思ったところで。
その男が、サイフォスとヴィオラに向かって敬礼をした。

 と、周りや遠目にはそう見えていたが……
実際はヴィオラに、意味深な視線を送っていて。
ヴィオラも先程の一件から、それに気付いていた。

ーー本当に、一体なんなの?
もしかして、ラピズの知り合いっ?
そう思いついて。
行方を知る手掛かりになるかもしれないと、胸が騒ぎ始めた。

 そしてすぐさま。
その男の鮮やかな剣さばきに、衝撃を受ける。

ーー待って、凄腕なんてレベルじゃない!
しかもあの太刀筋といい、身のこなしといい……
あの体型といい、既視感のある眼光といい……

 そうそれは、ラピズのそれとそっくりだったのだ。

 だがその男は、茶髪にブラウンアイで……
顔も甘いマスクではあるものの、ラピズのヴィジュアルとは違っていた。

ーーどういう事?
でも私がラピズを間違うはずがない!

 そう、シュトラント公爵は、似ている事にまったく気付いてなかったが……
ずっとラピズの太刀筋を見てきて、その剣さばきに惚れ込んでいたヴィオラは、絶対に間違わない自信があったのだ。

 とはいえ、別人だと認めざるを得ない状況に……
混乱の最中。
試合はあっという間に、その男の勝利で終わった。
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