悪妃になんて、ならなきゃよかった
「あの敬礼した剣士、見事な腕前だったな、ヴィオラ」
そこでサイフォスに、そう声掛けられて。

 ヴィオラはさっきから気になっていた事を、言わずにはいられなくなる。

「……そうですね。
ところで殿下。
先程から、いちいち名前を呼びすぎなのでは?」

「っ、すまない。
呼べるのが嬉しくて……」
そうプイと顔を背けるサイフォスに。

ーーなんなのこの人!
その冷淡な顔で、素っ気ない口調で、なんて事言うのっ?

 そのギャップと愛くるしい発言に、胸を掴まれて。
ヴィオラもプイと、顔を背けずにはいられなかった。

 とはいえ、次の試合が始まると。
2人して、観察するように見入ったのだった。


 そうしてるうちに、試合は次々と繰り広げられ。
ラピズに似た男は、どんどんと勝ち進み……
とうとう、決勝戦を迎える事となった。

 するとサイフォスが、「準備をしてくる」と席を外した。

ーー準備って、表彰式の?
当然そう思って。
気になる決勝戦の、勝負の行方を見守った。

 観戦中に聞いた話によると、相手は優勝候補らしく。
試合は白熱を極めたが……

「勝負あり!
勝者、ランド・スピアーズーーー!」

 そこで、大歓声が沸き起こり。
勝ったのは、あのラピズに似た男だった。

 ヴィオラは、ほっと胸を撫で下ろすと……
「やはりあの男が勝ったか」
戻ってきたサイフォスに声掛けられる。

「予想していたとは、意外と見る目があるのですね」
そう振り向くと。

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