悪妃になんて、ならなきゃよかった
 サイフォスは剣士の服装を身にまとい、剣を携えていた。

「……なぜそのような出で立ちを?」

「余興として、優勝者と一戦交える事にした」

「はい?
何を考えているのですかっ?
あの者の腕前をご覧になったでしょう?
殿下が太刀打ち出来るような相手ではございません」

「やってみなければ判らないだろう?
俺も剣術は、歴戦の最強騎士から鍛えられてる」

「だとしてもっ、お怪我をされたらどうするのですか!」

 そう、今大会のルールは寸止めだったが、使用するのは真剣だからだ。

 するとサイフォスは、驚いた顔を覗かせて。
そのあとフッと、嬉しそうに微笑んだ。

「もしかして、心配してくれてるのか?」
そう返されて。
今度はヴィオラが、その図星に驚いた。

ーーうそ私、どうして心配してるのっ?
いっそ命を落としてくれたら、この結婚から解放されるのに……
そう思って、ハッとする。

ーーもしあの男も、同じ事を考えたら?

そう、試合中の事故なら罪には問われず。
あの男の実力なら、それを装うことは容易かった。
そしてあの男がラピズかその関係者なら、そうする可能性も十分にあった。
相手は、愛する恋人を奪った男なのだから。

「……っ、心配してるといったら、やめてくださいますか?」

「……やめたら、俺を好きになってくれるか?」

「ふざけないでください!
それとこれとは話が別ですっ」

「ならばやる。
勝てば、憧れはしてくれるんだろう?」

「え……」
そこでヴィオラは、先程言った言葉を思い出す。
~「この大会で優勝するほどの腕前なら、憧れはするでしょう」~

ーーそのために、いずれはこの国を統べる王太子が、こんな危険な事をっ?

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