悪妃になんて、ならなきゃよかった
 そうして、式が始まると。
ヴィオラは、すでに待ち構えている王太子の元へ歩み寄った。

 王宮入りした日に挨拶して以来。
姫教育や結婚式の準備などで忙しく、会うのは2度目だった。

 黒髪に、オニキスのような漆黒の瞳を携えた、王太子サイフォスは……
キリリと凛々しく、ゾクリとするほど整った顔で、恐ろしく冷淡な表情をしていた。

ーーこの人、本当に私に一目惚れしてるの?
思わずそう疑ってしまうほど。

 元よりサイフォスは、冷酷な王太子と噂されていた。
その地位と眉目秀麗さで、大勢の女性を虜にしていたが……
その冷たい態度に、泣かされた令嬢は数知れず。
そのため、冷酷だと批判されていたわけだが……

 ヴィオラは、自身も見た目に好感を持たれた挙句、勝手に幻滅されたり批判されてきたため。
見た目のイメージや噂話などは、真に受けないようにしていた。

 とはいえ、恋人と引き裂かれた身としては……
こちらの状況も考えず一方的に求婚してきた相手が、望んでいるはずの結婚式でこうも冷淡な態度だと。
やはり噂は本当なのかと思わずにはいられなかった。

 そして、この様子なら初夜の心配はなさそうだと、ひとまず胸を撫で下ろしたのだった。



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