悪妃になんて、ならなきゃよかった
 そんな中。
テクニックやスピードは、日々磨き上げられたランド・スピアーズの方が優れており。
代わりにパワーは、体格的にサイフォスの方が上回っていた。

 とはいえ基礎体力は、積み重ねの少ないサイフォスが劣っており。
その分ランド・スピアーズは、これまでの戦いでそれを消耗していた。

 激しい打ち合いの音が響き渡る中、両者はほぼ互角のようだったが……
サイフォスは、絶対に負けられない!という凄まじい覇気で、己のマイナス面を跳ね除けた。

 だが、絶対に負けられない気持ちはランド・スピアーズも同じで……
最早それは、殺気のようなものを醸し出していた。

 決勝戦を凌ぐ緊迫した接戦を、会場の誰もが固唾を飲んで見守ってると……
先にランド・スピアーズが、決めの一刀を振り下ろした。

 その瞬間、サイフォスはニッと笑い。
それを左腕で受け止めて、払い退けたと同時。
右手でランド・スピアーズの喉に剣先を突き付けた。

 息を呑む展開に、会場は一瞬鎮まりかえるも。
直後、怒涛の大歓声が沸き起こる。

 まさしく、肉を切らせて骨を断つ戦法だったが……
ヴィオラは、なんて事を!と呆気にとられ。
あってはならない王太子の負傷に、周囲はすぐさまどよめき始めた。

「殿下っ!」
当然、ウォルター卿や配下の者たちも、血相を変えて駆け寄ったが……
サイフォスは問題ないと言わんばかりに。
勝利を知らしめるように、突き付けていた剣を天空に掲げた。

 途端、熱狂的な拍手喝采に包まれて、王太子への賞賛の声が飛び交った。

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