悪妃になんて、ならなきゃよかった
 するとサイフォスは、剣を納めて。

「素晴らしい腕前だった。
お前が初戦だったら、俺はとっくに負けていただろう」
膝を落としていたランド・スピアーズに、そう手を差し伸べた。

 それは事実だったが……
王族が名も知れぬ剣士に対して、素直に認めるなど考えられない事で。
悔しさが驚きに変わったランド・スピアーズは、潔くその手を取った。

 それにより、先程以上の拍手喝采に包まれて、ランド・スピアーズへの賞賛の声も飛び交った。

 ヴィオラは、そんなやり取りや状況に胸を熱くしながらも……
早く手当てをと、気が気ではなかった。

 それはウォルター卿も同じで……
サイフォスは卿に急かされるようにして、表彰式前に手当てを受ける事となった。

 その傷は、刃を肘付近の骨で受け止めていたため、大事には至らなかったが……
払い退けた事で、酷く抉れたようになっていた。
だが払い退けなければ、相手の力量次第では切り落とされていただろう。

 剣術に詳しいヴィオラは、それをわかっていたためゾッとして……
胸の痛みに苛まれながらも、憤りを感じていた。

「……そこまでして勝ちたかったのですか?」
処置を受けているサイフォスに、冷ややかに詰問するも。

「ああ、勝ちたかった」
平然と返され。

 キツく言わなければ、殿下はまた自分を犠牲にするだろうと、ヴィオラは心を鬼にする。
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