悪妃になんて、ならなきゃよかった
 ところがその夜、王太子はヴィオラの部屋を訪れた。

「何の御用でしょう?」

「何の?
初夜だというのに、愚問だな」

「……殿下こそ愚答では?
私たちは形式的な夫婦にすぎません。
愛してもない男に抱かれるなんて、考えただけで吐き気がします。
まずは、私を惚れさせるのが先ではありませんか?
それまではどうか、その悍ましい手で一瞬たりとも触れないでくださいませ」
そう言ってヴィオラは、ツンと顔を背けた。

 彼女なりに、悪妃として振る舞っていただけじゃなく。
別れたとはいえ、一生愛してると言ってくれたラピズに、操を立てていたのだ。
そして、恋仲を引き裂いたサイフォスを恨んでいたからだ。

ーー私はあなたを、絶対に許さないわ。

「……そうか、わかった」
サイフォスは素っ気なく言い放つと、ヴィオラの部屋から出て行った。



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