悪妃になんて、ならなきゃよかった


 後日、ヴィオラはサイフォスから食事に招かれた。

 ところがその時間になっても、ヴィオラはまだ支度に手間取っていた。

「妃殿下、急がれませんとっ……
王太子殿下がお待ちです」
年長の宮廷侍女が焦った様子で、いつまでも鏡を見ているヴィオラに催促した。

 元よりのろまなヴィオラは、支度にはいつも手間取っていたが……
今回は慌てる必要はないと、のんびり対応していたのだ。
そう、わざとサイフォスを待たせるために。

「わかってるわ?
それより、やっぱりあっちのドレスにしたいから、着替えさせてちょうだい?」

「妃殿下っ!」

「大きな声を出さないで。
このドレスで行く気はないから、やらなきゃもっと遅くなるだけよ?」
冷ややかに告げるヴィオラ。

 その美しく淡白な風貌は、儚げにも見えるが……
クールに振る舞えば、それが一際映える風貌でもあり。
宮廷侍女たちには、氷のように冷淡に見えていた。

 そうしてヴィオラは、そのあと2度もドレスを着替え直して……
忙しい王太子を、なんと1時間も待たせたのだった。


 にもかかわらず、謝罪や悪びれた様子も見せず。
テーブルに着くと、逆にサイフォスが謝ってきた。

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