悪妃になんて、ならなきゃよかった
「すまない。
待ってる間、ここで仕事を片付けさせてもらってた」

「……構いません。
ですがそんなにお忙しいなら、今後は招かないでくださいませ。
私は気が乗らないと、支度に時間がかかるので、その当て付けのように感じますわ」

「そう感じさせたくなかったから謝ったんだ。
むしろ気が乗らないのに、来てくれてありがとう」

ーーまさか、お礼を言われるなんて。

 それは、あり得ない事だった。
国の2番手ともいえる身分の者が、これほど無礼な扱いを受けながら、相手を気遣い感謝を告げるなど……
ただその口調は、相変わらず素っ気なかった。

ーーそうか、気に入られるために聖人ぶってるのね?
私が離婚されるために、悪妃ぶるように……

 若干戸惑ったものの、すぐにそう合点して。
ヴィオラは次の悪妃作戦に移った。


「わざわざお招きくださったので、どれほど素晴らしいご馳走を、振る舞っていただけるのかと思っておりましたが……
正直、がっかりしました。
いつも私が、口にしているものばかりですもの」

 そう、ヴィオラの好きな食べ物を用意するならば、当然の状況だった。

「それなら味付けは、慣れ親しんだものの方が口に合いますし。
気が乗らない中、せっかく足を運んだのに……
とんだ無駄骨でした」

 それは、先程のお礼に対して……
来たのはサイフォスのためではなく、ご馳走のためだと示す言動でもあった。
< 8 / 44 >

この作品をシェア

pagetop