悪妃になんて、ならなきゃよかった
「ならば逆に、何が食べたい?」

ーーうそ、これでも怒らないの?

 食事はこの上なく豪華で、ヴィオラの好みに配慮されたものだった。
それをこのように踏み躙れば……
先程の無礼と相まって、さすがに怒るに決まっていた。

 そこでヴィオラは、器が小さいなどと愚弄したり。
「私にお怒りなるのはお門違いです。
そんな女を選んだのは、殿下なのですから。
今後はご自分の愚かさと、選択ミスにお怒りください」と、離婚したくなるようにし向けるつもりだった。

 ところがサイフォスは、怒る気配すらなく。
それほど心が広いのか、それほどベタ惚れしているのか……
だがその素っ気ない態度から、とてもベタ惚れしているようには見えなかった。

ーーだとしたらこの人なりに、一方的な求婚を申し訳なく思ってる?

 しかし本来……
恋人などがいない状況下で、王太子からの求婚を不快に思う令嬢など、いるはずもなかった。
むしろ、この上ない名誉と幸運で……
それを与える側の王族が、申し訳なく感じる所以などあるはずもなかった。

 ヴィオラは、サイフォスが何を考えているかと困惑しつつも……
「殿下と一緒に食べたいものなど、ございません。
なので今後は、お断りさせていただきます」
そう悪態をつく事しか出来なかった。



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