再会したエリート警視とお見合い最愛婚
パリでの出会い

 美術館を出ると、九月のさわやかな風が頬を撫でる。
 滝川彩乃(たきがわあやの)は目を細めて、パリの晴れた空を見上げた。

 昨夜遅くオペラ座近くのホテルに到着した。翌日からの観光に備え体調を整える為に早々にベッドに入り、今朝はアラームなしで早くに目覚め観光に出た。

 まずは昔から憧れていたルーブル美術館に向かい、有名なモナリザやミロのヴィーナス、ルーブル・ピラミッドなどの芸術品を鑑賞した。その後、チュイルリー公園内にあるオランジュリー美術館に移動し、モネの睡蓮など美しい絵画を堪能してきたところだ。

 落ち込んだ心を癒し気持ちを立て直したくて、思い切って決めた傷心ひとり旅。

(不安もあったけれど、来てよかったな)

 時刻は午後三時。美術館内や移動中に見かけたカフェはどこも混んでいたため、昼食は取っていない。

 空腹は感じていないけれど、少しは食べたほうがいいかもしれない。

 広大なチュイルリー公園は、地元の人たちの憩いの場でもあり、散歩をしている人や、ベンチで食事をしている人を見かける。

(私もパンでも買おうかな)

 そんなことを考えながらのんびり歩いていると、いつの間にかコンコルド広場に辿りついていた。
 有名なオベリスクなど周囲の眺めを楽しんでいると目の前に小さな子供が立ち止まった。

 小学生くらいの小さな女の子が、何か言いたそうに彩乃をじっと見つめている。黒髪に黒い瞳と顔立ちから綾乃と同じ日本人観光客の子供だと思ったが、近くに保護者らしき人は見当たらない。

「大丈夫? もしかしたら迷子になっちゃったのかな?」

 彩乃は戸惑いながらも、女の子の視線に合わせて屈み優しく問いかけた。

(こんなに小さいのにひとりなんて心細いでしょう)

 困っているなら助けてあげたいが、待っても返事はなかった。

(あれ? もしかしたら日本人じゃないのかな?)

 だとしたら現地の子供なのかもしれない。

「......How can I help you?」

 フランス語が話せないため、あまり自信がない英語で聞いてみたが、やはり返事がない。

(私の発音が悪くて伝わってないのかな?)

 首を傾げたそのとき、誰かが近づく気配を感じた。
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