再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 気勢をそがれた彩乃は瞬きをしてから、小さく頷く。

「彩乃に余計な心配をかけてしまったのも、その場で問い詰められてもおかしくない場面なのに、彩乃が隠れたのも、俺が彩乃に信頼されていないからだと思う」

「え? そんなことはない。蒼士さんのことは信頼してます」

 意外な彼の発言を、彩乃はすぐに否定した。実際声をかけられなかったのも不安になったのも、信頼の問題ではなく彩乃が自分に自信がないからなのだから。

 けれど蒼士は納得できないようだった。

「いや、俺が自分の気持ちをはっきり伝えていなかったのが悪い」

「え?」

(自分の気持ち? それって......)

 彼は少しの間をおいてから、彩乃が聞き逃さないようにはっきりとした声で言った。

「俺は彩乃を愛してる」

 その瞬間、彩乃は大きく目を見開いた。

 彼の言葉は確かに耳に届いたのに、すぐには信じることができなかったから。

 自分は都合がいい夢を見ているのではないだろうか。

「三年前のパリで初めて会った日から、ずっと忘れられないでいた。彩乃がくれた言葉が心に響いて、気持ちが楽になった。滝川次長から縁談の話が来たとき、俺はまだ結婚なんて考えられなくて、どう断ろうか悩んでいた。でも相手が彩乃だと知り、再会して顔を合わせたら、断るなんて考えられなくなった。他の誰にも彩乃の隣を渡したくないと思ったんだ」

「うそ......」

 彩乃はぽつりと呟いた。蒼士本人が言うのだから嘘な訳はない。それでも。

(蒼士さんが私と同じように、想ってくれていたなんて、信じられない......)

「で、でも、蒼士さんはお見合いのときも、そんな素振りは見せなかったし、私と違ってすごく冷静だったから......」

 待ち望んでいた再会に、彩乃は胸を躍らせて喜んだけれど、蒼士は顔色ひとつ変えず、平然と彩乃を眺めていた。あのときの落胆は今でもはっきり覚えている。

 蒼士は自覚があるようで、気まずそうな顔をする。

「あのときのことは覚えてる。彩乃は俺に笑いかけてくれたよな。俺も彩乃に再会出来て嬉しかった。滝川次長に隠している可能性もあったから初対面のふりをした方がいいと思ったもあるが、以前よりも大人びて綺麗になった姿が眩しく感じて、柄にもなく照れてしまったんだ。」

「え......そうだったの? 蒼士さんが私を?......」

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