再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 嬉しさと恥ずかしさで動揺する彩乃を、蒼士は優しく見つめ、その端整な顔を近付けた。

 一際高く心臓が跳ねるのを感じながら、彩乃はぎゅっと目を閉じた。

 次の習慣、唇がそっと触れ合う。それだけで彩乃の頭の中は真っ白になり、もう蒼士のことしか考えられなくなる。

「可愛いな」

 まだ慣れていない彩乃の反応に、蒼士が嬉しそうにほほ笑み、更にきつく抱きしめられる。

「......蒼士さん」

 愛しさがこみ上げて、彩乃は蒼士の背中に腕を伸ばし自分から抱き着いた。

(蒼士さんが好き......大好き)

 温かな温もりに包まれ、彩乃は幸せを感じたのだった。




 想いを伝えあい本当の夫婦になったのだと思うと、嬉しくて、離れがたい気持ちでいっぱいになった。少しでも一緒に居たいし、話したいことが沢山ある。

 他愛ない話をしていたとき、彩乃のお腹がぐうと空腹を訴える大きな音を立てた。

 蒼士にもはっきり聞こえてしまい、彩乃は顔を赤くしぎゅっと目を閉じた。

(こんなに雰囲気のときに、なんでお腹が鳴っちゃうの?)

 蒼士への想いで胸がいっぱいで決して空腹を感じていた訳じゃないのに。せっかくの恋人らしい甘い雰囲気が台無しだ。

 彼はくすりと笑い、自分の腕時計を確認する。

「そろそろ八時になるんだな」

 どうやらお腹の音については蒸し返さないでくれるようだ。

 けれど、面会時間の終わりが近づいている。

(寂しいな......もっと一緒に居たいのに)

 彼も同じ気持ちなのか、彩乃の頬を撫で残念そうにため息を吐いた。

「あ......私も寂しい」

 素直に伝えると、蒼士が悩まし気なため息を吐く。

 それから彩乃をそっと抱きしめてささやいた。

「ここが病室じゃなかったら、抱きしめて離さないのに」

「そ、蒼士さん......」

 これまでの彼からは考えられない、甘い言葉に彩乃は真っ赤に頬を染めた。

 心臓がどきどきとうるさく、ときめきが止められない。

 そんな彩乃の顔を見つめて、蒼士が微笑む。

「彩乃が回復して退院したら、そのときは離さない。こうやって抱きしめ朝まで眠るんだ」

 彩乃は幸せで胸がいっぱいになるのを感じながら、彼の背中に腕を回した。

「私......あの日蒼士さんが私を見付けてくれて、こんなに大切に想える人に出会えてよかった。本当によかった......」
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