再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 彼にこみ上げる彩乃の気持ちを分かって欲しくて、心のままに伝えた言葉。本心だけれど我ながら照れるもので蒼士の広い胸で照れて火照った顔を隠していたが、彼によって顔を上げられてしまう。

 見つめ合う蒼士の目はとても優しい。言葉にしなくても彼の愛が伝わって来るような気がした。

「愛してる」

 ドクンと彩乃の心臓が音を立てる。

「なによりも大切にする。二度と危険な目に遭わせないし俺が一生守るから」

 彼の端正な顔に見入っているうちに、そっと唇を塞がれた。



 彩乃が連れ去られた日から、一週間が過ぎた。

 クリスマス後の街並みは、年末年始を控え、相変わらず賑わい華やいでいる。

 彩乃は急ぎ足で、銀座の通りを進み、勤務先の法律事務所が入っているオフィスビルを目指していた。

 巨大なビルのロビーには、約束の時間よりも五分早いけれど既に蒼士が待っていた。

 黒のロングコートを羽織り、姿勢正しく佇む彼は、ただそこに居るだけで人目を引く。

 彼を知らない人が見たら、刑事ではなくモデルだと思うかもしれない。

「蒼士さん!」

 彩乃は駆け寄り声をかけた。彼はすぐに反応し彩乃を見て目を丸くする。エレベーターから降りて来るはずの彩乃が、エントランスからやって来たから驚いたのだろう。

「どうして外から?」

「先生から急なお使いを頼まれて行ってきたの」

「わざわざ戻って来たのか? 連絡してくれたら迎えに行ったのに」

 蒼士が彩乃の背中に手を添えて、そっとエントランスに向かうように促す。

 彩乃が明日蒼士のマンションに戻ることになっている。

 実家で過ごす最後の夜ということもあり、蒼士も合わせて四人で食事をすることになっているため、あまり時間がないのだ。

 彩乃を軟禁した佐藤が逮捕された後、現役キャリアの不祥事に警察庁は大騒ぎになったそうだ。

 被害に遭い関係者となった彩乃にはある程度の説明をして貰えたのだが、佐藤は以前から政治家と大企業の贈収賄事件に絡んでいて、警察内の情報を流す対価として大金を得ていたらしい。ところが蒼士に気付かれて、逮捕目前だったとか。

 彩乃の前で自棄になり何度も終わりだと叫んでいたのは、そのせいだった。

『逃げきれないと分かっていたから、復讐しようとしたんだな。だが反撃出来ない彩乃に復讐するのは間違っている。恨んでいるはずの俺に来ていたらまだ理解出来たかもしれないのに』

 蒼士が忌々しそうにそう言っていた。
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