一度は諦めた恋なのに、エリート警視とお見合いで再会!?~最愛妻になるなんて想定外です~
「ご両親に反対されなかったのか?」
「ひとり旅をですか?」
蒼士が「ああ」と相槌を打つ。
彩乃の脳裏に出発前の両親の様子が思い浮かんだ。とても心配そうな顔をしていた。反対と言いたい気持ちが漏れ伝わって来るくらい
に。
それでも、最後まで駄目だとは言われなかった。 大学生になっても、門限を守るように言う厳しい両親なのに。
(きっと、私が気持ちを整理するのに必要な行動だと受け止めてくれたんだよね)
両親の気持ちを思うと、切なさがこみ上げる。
「......今回の旅行は特別に許してくれたんです」
「そうか。それならよい思い出になるように楽しまないとな」
蒼士が柔らかにほほ笑んだ。
「はい。パリ二日目にしてトラブルに遭いそうだったところを助けてくれた北条さんには感謝です」
「さっきも言ったが、そこまで感謝されることはしたつもりはないんだけどな」
「ああ、職業病みたいなものだっておしゃっていましたよね。大使館勤務だと、私みたいな日本人とよく会うんですか?」
「そうだな。パスポートを失くしたって駆け込む観光客もいるし、トラブルの相談を受けることもある」
「大変なんですね。北条さんはパリに来て長いんですか?」
「来月で一年になる。人気の観光スポットは一通り回ったから、知りたいことが有ったら聞いてくれ」
「すごい頼りになります。では......」
気になっていたヴェルサイユ宮殿やその他の名所について質問をする。
蒼士との会話は楽しく、憂(ゆう)鬱(うつ)なことを忘れられる。彩乃にとって久しぶりに心から笑える時間だった。
彼は今日が初対面と思えないくらい、話しやすい。それどころかもっと会話をしたいとすら思う。
慣れないアルコールが体に巡っている効果もあるのかもしれない。
「滝川さんが希望する観光スポットを回るには、あと三日は必要だな」
「やっぱりそうですか......どこか諦めないとですね。明々後日の飛行機で帰国するので、観光に使えるのは二日しかないんです。それ以上は両親の許可がでなくて......私が頼りないからなんですけど」
成人しているのにと呆れられるかと思ったが、蒼士はいやと首を横に振った。
「それだけ家族に大切に想われているからだろう。どんなにしっかりしている娘でも親は心配するものなんじゃないか?」
蒼士が優しく微笑んだ。
彩乃も笑い返そうとする。でも上手く出来なかった。
ふいに両親の顔が浮かんで、胸が痛くなったのだ。
「......でも、本当の両親じゃないんです」
思わずそう口にしてしまっていた。蒼士が「え?」と零(こぼ)し戸惑いを見せる。
「私、両親の実の子ではなく養子だったんです。先日それを知らされて、すごくショックで......」