再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 晴天の霹靂。あの瞬間、普段は使わない諺(ことわざ)が思考を占めて、他には何も考えられなかったほどだ。

「私の実の両親は、私を育てるのを放棄して施設に預けて、それきり音沙汰無しだそうです。両親に捨てられてしまったんです」

 血が繋がった両親に、どうなってもいいと思われた。その事実が未だ彩乃を苦しめる。

 思わずはあと溜息が零れた。その瞬間、なにか言いたげな表情の蒼士と目が合いはっとした。

(私、なんでこんな話をしちゃったの?)

 今日会ったばかりの人なのに。彼だってこんな話題を振られても迷惑だろう。現に笑顔は消えて、浮かない表情に
なってしまった。

「あの、私へんな話を......」

「捨てられたなんて言わない方がいい」

 蒼士が彩乃の言葉を遮り言う。先ほどまでとは違う強い声音にどきりとし、再び後悔が押し寄せた。

「そうですよね、嫌なことを言ってすみま――」

 慌てて謝罪しようとする彩乃の言葉を蒼士が遮る。

「君の両親は、これまで育ててくれたふたりだよ。話を聞いていて俺はそう思う」

「え......」

 彩乃は戸惑い瞬きをする。

「君はつい先日まで自分が養子だなんて考えもしなかったんだろう? 二十年以上、君がほんのわずかな疑問さえ持つことがなかったのだとしたら、それは両親が実の子同然に愛情をもって育ってくれたからじゃないのか?」

 彩乃はそっと目を伏せた。

 全て蒼士の言う通りだからだ。ずっと大切にしてくれた家族。

「ショックを受ける気持ちはよく分かる。それでも悲しむよりも、これまで君を愛し支えてくれた人たちを信じた方がいい。家族はきっと君が元気になって帰って来るのを待っているから。」

「そう......ですよね」

 彩乃はゆっくり頷く。ぽろりと涙が零れた。

 分かってる。初めから頭では分かっていた。

 でも感情がついていかなくてずっと悲しかった。

 誰にも必要とされていないような気がして、その辛さを誰にも相談できなくて苦しかったのだ。

 心配をかけたくなくて平気なふりをするのが辛くて、考えるほど孤独な気持ちになり両親の想いすら信じられなくなりそうで。

 でも、蒼士の言葉で家族との絆を思い出せた。

(私はちゃんと愛されていた)

 そのことに気づくことができ、心がすっと軽くなる。
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