再会したエリート警視とお見合い最愛婚
「悪い。言い過ぎた」

 彩乃が泣いてしまったからか、蒼士が慌てたような気配を滲(にじ)ませる。

「いえ、大丈夫......」

「今日会ったばかりの俺が、家庭の事情に踏み込むような発言をして悪かった」

「いいえ。私を心配してくれたんだって十分伝わってきました。ありがとうございま
す」

 少し零れた涙を拭きながら微笑むと、蒼士がどこか照れた様子を見せる。

「気を遣わないでくれ。繊細な問題なのに無神経だった。以前も余計なおせっかいをして失敗したって言うのに駄目だな」

 蒼士が自嘲気味に言う。

「北条さんは面倒見がいいんですね。困っている人がいると放っておけないんでしょう?」

「いや、そんなにいいもんじゃない」

「でも私は励まして貰ってすっきりしました。きっと誰かに大丈夫だと言って貰いたかったんだと思います。でも身近な人にはどうしても相談出来なくて」

「親しいからこそ話せないってことはあるよな」

「はい、心配かけたくないので......そう言いながら、結局心配かけてしまってるんでしょうけど」

 心配そうな両親の顔が思い浮かび胸が痛くなる。

「そうだな。でもだからと言って自分を責める必要はないと思う。君の立場なら俺だって平常心じゃいられない。むしろ理性的だと思うけどな」

「......そうでしょうか?」

「ああ。ご両親だってそう思って、本来は絶対反対するような箱入り娘のひとり旅を許したんじゃないか?」

「はい......そうかもしれません」

 彩乃は少し微笑んで頷いた。

(不思議だけど北条さんと話していると、前向きになれる)

 彼の言葉は単なる慰めの言葉ではなく、彩乃の心に染み入るのだ。

「ありがとうございます。段々元気が出てきました」

「それはよかった」

「くよくよしないで、旅を満喫するように頑張ります」

 張り切って言うと、蒼士が笑顔になった。

「その意気だ。残りのパリ滞在が素晴らしいものになるといいな」

「はい。北条さんのおかげで、最高の旅になりそうです」

 社交辞令ではなく、心からそう感じた。

(親に捨てられたとか、養女だったとか、感傷に浸って卑屈になるのは止めよう)

 今、自分を愛してくれている家族が真実だと自信を持っていいのだ。

「立ち直れた気がします」

「あまり無理はしない方がいいぞ?」

「はい」
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