一度は諦めた恋なのに、エリート警視とお見合いで再会!?~最愛妻になるなんて想定外です~
 彩乃は蒼士に頷いてから、ワイングラスを手に取った。残りはあと半分もない。

 すると彼が心配そうに眉を顰める。

「あまり酒に慣れてないみたいだから止めたいところだが、今の君には必要そうだ。悪酔いしないのを頼んでおくよ」

 彩乃とは違い蒼士はかなりお酒に詳しそうだ。

(七歳年上の社会人だものね)

 きっとこれまでに様々な経験をして慣れているのだろう。

 海外赴任をし自立しているというだけで、彩乃にとっては尊敬に値するし、実年齢以上の経験値の開きを感じる。

 彼から見たら彩乃なんて、本当に子供同然だろう。

 人目を引く際立った容姿の彼は、パリの町を歩いているときも、振り返って彼を見る人が何人もいた。面倒見の良さと、初対面なのに不安を感じさせないコミュニケーション能力。

(北条さんって、凄くもてるんだろうな......)

 オーダーして貰った淡いカクテルを飲みながら、彼の様子をちらりと伺う。

 すると、彩乃が慌ててしまうくらい、思いきり目が有った。

 どうやら彼は彩乃のことをずっと見ていたらしい。

「あ、あの......」

 なんだか気恥ずかしくなって慌ててしまうと、蒼士が柔らかく微笑んだ。

「本当に元気になったみたいでよかった......こっちまで明るい気持ちになった。ありがとう」

「ええ? どうしですか?」

 ついさっきまで暗い話をしてしまったと言うのに。

「純粋な君を見ていたら、心が晴れやかになる気がする」

 彩乃は首を傾げた。

「北条さんも、なにか悩みを抱えているんですか?」

 彼のような器用で何でも軽々こなしそうな人が、彩乃と同じような苦しさを抱えていると思うと不思議な気がした。

(でも、困っていることがあるなら、少しでも励ましてあげたいな)

 恐らく彼の悩みは彩乃が役に立てるようなことではないだろうが、誰かに話を聞いて貰うだけで気が楽になることはある。ほんの少し前の彩乃のように。

 蒼士にとって彩乃は、しがらみがなく、今後会う機会もないだろう相手だ。だからこそ気軽に話すことが出来るのではないだろうか。

「あの、もしよかったら、私に話してくれませんか? あの、さっき北条さんに悩みを聞いて貰って凄く楽になったんです。身近な人に言えなくても、明々後日パリを発つ私になら愚痴でも言いやすいかなと思って」
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