再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 彩乃の言葉に、蒼士は驚いたような表情になる。

「私は北条さんに助けて貰いました。だから少しでもお役に立ちたいんです」

 彩乃は心をこめて蒼士に訴える。彼は相変わらず無言で彩乃を見つめたままだで、反応がない。

「あの......もちろん、無理にとは言いません」

 彩乃はどんどん自信がなくなっていくのを感じ、身を小さくした。

(北条さん困ってるみたい。余計なお節介だったのかも......そうだよね、よく考えてみたら北条さんの悩みを聞くなんて、私では力不足に決まってるもの)

 良かれと思っての提案だったが、彼のような大人の男性が、まだ大学生の娘に何を相談するというのだ。

「なんか......生意気なことを言ってしまったかもしれません」

 しゅんとする彩乃を見つめていた蒼士が、ワイングラスを手に取る。

 口に運び一気に煽ると、彼は彩乃に柔らかな眼差しを向けた。

「いや、お言葉に甘えて聞いて貰おうかな。重い話で、君を不愉快な気持ちにさせてしまうかもしれないが」

「そんなことはありません、大丈夫です!」

 蒼士が困ったように眉を下げた。安請け合いをする彩乃に呆れているのかもしれない。

 それでも蒼士は静かに口を開いた。「何年か前に、同僚の不正を告発したことがあるんだ」

「え......不正ですか?」

 思いがけない、少しも想像していなかった内容だった。

「そう。告発した相手はただの同僚ではなく友人とも言える相手だった。だからこそ不正を反省してやり直して欲しかったんだ」

 言葉と共に蒼士の表情が曇っていく。それだけで彼の期待するような結末にはならなかったことを察し、彩乃も息苦しい気持ちになった。

「......反省してくれなかったんですか?」

 恐る恐る聞くと、蒼士が首を縦に振った。

「そうだな。彼は自分の行動を省みるよりも、俺を恨(うら)んだ」

「友達だったんですよね?」

「ああ。でも過去形だ。今は本人からもその家族からも恨まれている。俺の告発が原因で、友人の家族は崩壊してしまったんだ」

「そんな......」

(離婚してしまったということなのかな)

「それは気の毒だと思いますけど、友人の方は違反をしていたんですよね? 北条さんが気付いてしまた以上、黙っている訳にはいきません。正しいことをしたと思います」
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