再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 外交官という職業は簡単になれるものではないものだと彩乃でも分かる。蒼士の告発でその職業を失ったのだとしたら、恨んでしまうかもしれない。けれど、彼は間違ってはいないと思った。

 彩乃の父は公明正大な人だ。その影響を受けたのか、良心に恥じない正しい行いをしたい。そんな風に考えている。だから蒼士の行動は共感出来る。

「ご友人が家族を失ってしまったことで同情して、心が痛むのだと思いますけど、自分の信念を曲げて、友人の罪を見過ごしたら、きっと今頃もっと後悔しているんじゃないでしょうか」

 今、蒼士が迷っているように見える。でも彼の正義を見失わないで欲しいと思う。

 しばらくの沈黙の後、蒼士がふっと肩の力を抜く気配がした。

「そうだな。見て見ぬふりをしたら、俺はきっと今よりも後悔していた......気付かせてくれてありがとうな」

 蒼士が彩乃を見て優しく笑った。

「あ......あの、私みたいな社会人経験がない学生が生意気なことを言ってしまってすみません」

「どうして謝るんだ? 励ましてくれたのは分かってる。心に響いたよ」

 蒼士の大きな手が、彩乃の頭をぽんと撫でた。まるで幼い子にするような動作だけれど、嬉しくて頬が緩んだ。

「それならよかったです......北条さんに励まして貰って前向きになれたので、私も少しでも力に成れたらいいなって......」

「滝川さんは優しいな」

「そんなことないです」

 蒼士の優しい声に、恥ずかしくなってしまう。彩乃は目を伏せて落ち着こうと深呼吸をした。

(私ったら照れすぎ)

 蒼士のような大人の男性から見たら、ひどく子供っぽく映ってしまっているだろう。

 早く落ち着いて、しっかり彼の目を見て会話をしなくては。そう思うのに、蒼士と目が合うと、どくんと鼓動が跳ねて頬に熱が集まってしまう。

 慣れないアルコールのせいだろうか。それとも......。

 内心慌てているところに、蒼士の声が耳に届く。

「滝川さん。よかったら明日の午後、パリの町を案内しようか?」

「え?」

 思ってもいなかった誘いに、彩乃はポカンと口を開けてしまう。

 その様子を見た蒼士が、楽しそうに笑った。

「そんなに驚くな」

「だ、だって、今日だけでもありがたいのに、明日も付き合って頂くなんて......お仕事だってありますよね?」
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