再会したエリート警視とお見合い最愛婚
「大丈夫。お父さんが心配してくれているのは分かってるから......」

 父がほっとした様子が電話越しでも伝わってきた。

 通話を終えた彩乃は、ホテルの窓から街並みを見下ろした。

(こんなに平和に見えるのに)

 父の情報は本当なのだろうか。大袈裟に言っているのではないだろうか。未練からかついそんな考えが浮かぶが、その考えを振り払った。これ以上考えてはだめだ。

「まずは帰りのフライトの変更をしなくちゃ。荷物を纏めて、それに北条さんに観光に行けなくなったって連絡を......」

 そう呟いてはっとした。

(私、北条さんの連絡先を知らないんだった)

 約束はしているけれど、彼がホテルまで迎えに来てくれることになっていたのだ。

(どうしよう......あ、ホテルのコンシュルジュにメッセージを預ければ大丈夫かな)

 もし彩乃宛てに人が訪ねて来たら渡して欲しいとお願いしよう。

 帰国の準備や、メッセージを用意しているだけで、あっという間に時間が過ぎていく。

 帰りの便まで時間がないので、名残惜しむ間もなく、ホテルでタクシーを呼んでもらい、シャルル・ド・ゴール空港に向かった。

 羽田空港で入国手続きを済ませて荷物を受け取ると、帰って来たのだとほっとした気持ちになる。

 長時間のフライトで少し疲れを感じながら到着ロビーにたどりつくと、ここにいるはずがない母が駆け足で近づいてきた。

「お母さん?」

「彩乃! よかった無事に帰って来て」

 母は余程心配していたのか、いきなりぎゅっと抱きしめられる。

「お母さん......」

 こんな風に抱き締められたのはいつぶりだろう。年齢を重ねるにつれて母との関わりが減って行ったが、幼い頃はいつもこうやって側にいてくれていたのに。

 雷を怖がる小さな彩乃を、ぎゅっと抱きしめられたとき、本当に心強かった。

(本当に......北条さんが言っていた通りだな)

 彩乃にとっての両親は、今抱きしめてくれている母。そして心配してフランスまで連絡をして来た父なのだ。

「......心配かけてごめんね」

 いろいろな意味を込めて伝えると、返事の代わりに強く抱きしめ返された。

「いいのよ、ちゃんと帰って来てくれたんだから......さ、家に帰りましょう」

「うん」

 彩乃は母と共に、慣れ親しんだ自宅に向かったのだった。

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