一度は諦めた恋なのに、エリート警視とお見合いで再会!?~最愛妻になるなんて想定外です~
 この子の保護者だろうか。女の子から視線を移した次の瞬間、彩乃は目を見開いた。

 そこに居たのは驚くくらい美しい男性だったからだ。

 百六十センチの彩乃よりもニ十センチ以上高いすらりとした長身に、ひとめで素晴らしいスタイルだと分かる高い腰と広い肩。

 理想的な輪郭の顔に収まるのは、目じりが少し上がった印象的な二重の目と通った鼻梁に厚くもなく薄くもない唇。日焼けの名残がある肌は滑らかでシミひとつ見当
たらない。

 ブラウンのショートヘアは洗いざらしのように無造作だし、黒いジャケットにスリムパンツというシンプルなスタイルだと言うのに、どこか高貴さが漂っているように感じた。

「あの、この子の保護者の方ですか?」

 戸惑いながらも問いかけると、彼はその完璧な形の目を吊り上げた。

「なにを言ってる? 状況が分かってないのか?」

「え? 状況ですか?」

 呆れたように問われて、彩乃は首を傾げた。

「君は今、すりに遭いかけてたんだぞ?」
「えっ?」

 男性の発言に、彩乃は思わず声を上げた。

(すりって、どういうこと?)

 きょろきょろ周囲を見回すと、先ほど彩乃の前に佇んでいた少女がすごいスピードで走り去っていく姿が視界に入った。

「まさかあの子が?」

 あんなに小さな子供がすりだなんて信じられない。唖然として呟いた彩乃に、男性が溜息混じりに言う。

「あの子は囮だ」

「囮、ですか?」

「君があの少女に気を取られている隙を狙って、主犯がそっと背後から近づいて鞄の中身を狙うんだ。俺が割り込まなかったら鞄ごと盗まれてたぞ」

 男性が腕を組み、呆れ顔で彩乃を見下ろす。

「後ろから? うそ......全然分からなかった。あ、その主犯の人は?」

「とっくに消えた。俺が近づくのを察っしたんだろうな」

「そ、そうなんですね......あの、助けて下さってありがとうございます」

 彩乃はドキドキする胸を押さえながら頭を下げる。

 パリは華やかなだけではなく危険もあり、綾乃が立ち寄る予定の主要な観光地でもスリや置き引きの被害が多発しているとは聞いていたから、気をつけているつもりだった。

 でもまさか実際に被害に遭うだなんて思いもしなかったのだ。

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