再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 笑って誤魔化したけれど、母はますます心配そうに顔を曇らせる。

「......もしかして好きな人がいるの?」

「え?」

「だから悲しそうな顔をしているんじゃないの? そういう相手がいるなら気を遣わずはっきり言っていいのよ?」

「お母さん......」

 母は心からそう思っているのだと伝わってきた。昔から彩乃を実の娘として大切に慈しんでくれた人だから、縁談を断ったら滝川家にとってよくない状況になるとしても、彩乃の気持ちを優先しようとしてくれているのだろう。

(でも、私は......)

 彩乃は決意をして笑顔をつくった。

「今のところ恋人も好きな人もいないよ。お見合いの話進めて貰って大丈夫だから」

「本当にいいの?」

 念を押す母に彩乃はしっかりと頷いた。

「うん。お父さんとお母さんが選んだ人なら安心出来るから」

 ずっと優しく支えてくれた家族に恩返しがしたいと思っていた。自分が役に立つのなら、出来る限りのことをしたい。

「よかったわ。早速お父さんに連絡するわね」

「うん」

 彩乃は大切な思い出に蓋をして微笑んだ。
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