一度は諦めた恋なのに、エリート警視とお見合いで再会!?~最愛妻になるなんて想定外です~
 父から聞いた見合い相手の人物像は優秀だけど厳格なイメージで、近寄りがたい印象だったから少し心配だ。

 ドキドキしながら、まずは写真を確認する。その瞬間彩乃は大きく目を見開いた。

(えっ? ......北条さん?)

 写真に映る男性は、忘れられない彼とそっくりだったのだ。

 均整がとれたスタイル。丁度よい大きさの二重の目に平行するきりりとした眉。通った鼻筋にシャープな顎のライン。

 写真でも損なわれない美(び)貌(ぼう)は、この二年半ずっと心に残っていたものだ。

(うそ......そんな偶然があるわけないよね?)

 どくんどくんと鼓動が大きくなる。期待からくる緊張感でいっぱいになりながら肝心の氏名に視線を移す。そこに北条蒼士と、彩乃が知っている彼の名があった。

(北条さんだ!)

 間違いなく彩乃が知っている彼だった。

「で、でも、警察の人がどうして外交官に?」

 思わず上げた声に、父が僅かに首を傾げる。

「外交官? ああ、フランスでの大使館勤務のことか?」

「え? あの......」

「彼の経歴を見たのだろう? 意外と思うかもしれないが、警察庁からも大使館に出向するんだ。大使館警備の計画を立てたり、要人の護衛をする仕事だ」

 昔から父は彩乃に優しい。難しい言葉を避けて前提知識がなくても分かるように話してくれる。

 おかげで彼がフランスでどんな仕事をしていたのかイメージ出来た。

 彩乃は経歴の部分に素早く目を通した。父が言う通り、在フランス日本国大使館に三年間の出向と記されていた。帰国したのは昨年のようだ。

(そう言えば、北条さんは大使館で働いているとは言っていたけど、外交官だとは一言も言わなかった)

 大使館で働いていると言われて、彩乃が外交官だと思い込んだだけなのだ。

(すりを見抜いたところとか、思い出すと警官らしかったかもしれない)

「彩乃? 何か気になることがあるのか?」

 あれこれ考える彩乃に、父が声をかけてきた。

 母と同じように彩乃の気持ちを慮ってくれているのが伝わってくる。

「ううん。そうじゃなくて......すごく素敵な人だから驚いてしまって」

「はは。そうだな。彼は彩乃を安心して任せられる真面目で仕事熱心な青年だ」

 父は機嫌よく声を立てて笑い蒼士を褒める。

「うん、安心した」

「彩乃が前向きのようでよかったよ」

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