再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 彩乃はいろいろな意味を込めて言ったが、父は言葉通り受け止めたようだ。娘がお見合いに乗り気な様子に満足しているのだろう。彩乃は蒼士の写真にもう一度目を向けた。

 写真の中の彼が真っ直ぐこちらを見つめている。顔や髪形は彩乃の記憶と殆(ほとん)ど変わらないけれど、あのときのような笑顔ではなく真面目できりりとした表情だ。

 エリートと呼ばれる警察官僚らしい。

(笑顔もよかったけど、厳しい雰囲気も似合うんだな)

 彩乃は身上書を手にしてソファから立ち上がった。

「お父さん、私はそろそろ休むね」

「ああ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 自室に戻った彩乃は、ベッドに横たわり目を閉じた。

 写真を見たときの衝動はとても大きなものだった。今だってまだ心臓がドキドキしている。

 彼に会いたいとずっと思っていた。

 どこかで再会出来たら、何を話そうかと何度も想像した。

(でもまさかお見合い相手になるなんて思わなかった!)

 彩乃はベッドの上で体を転がし、枕に顔を突っ伏した。

(彼と結婚するかもしれないなんて信じられない......)

 両親が薦めるお見合い相手と結婚するつもりでいた。そうやって安定した幸せな家庭を築くことが、長年慈しみ育ててくれた家族への恩返しになるだろうから。

 夫になる相手とも、少しずつ仲良くなって、よい夫婦になれたらいいなと思っていた。

 でも今、彩乃の胸は期待に満ち溢れている。

 義務や責任や恩返しの気持ちではなく、ただ蒼士との再会が楽しみで仕方がない。

(彼も私の身上書を見てるんだよね? 驚いたかな......それとも、もう忘れちゃったかな)

 あれからもう三年が経っている。大使館勤務の彼はあれからも大勢の日本人観光客と接しているはずだ。そんな沢山の出会いがある中で、たった半日過ごしただけの彩乃を覚えてくれているだろうか。

 彼と会うのは楽しみだけれど、不安もある。

(覚えてくれていたらいいな......)

 その夜はなかなか寝付けなかった。
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