一度は諦めた恋なのに、エリート警視とお見合いで再会!?~最愛妻になるなんて想定外です~
 しばらくの間、当人同士で会話をしろということらしい。

 蒼士とふたりきりという状況に、彩乃の体が固くなる。彼と再会する前の期待からくるものとはまた違う、心臓をぎゅっと掴まれたような冷ややかな緊張で沈黙がきつい。

(どうしよう、すごく気まずい)

 この空気を変えたくて、とにかく何か言わなくてはとの思いで、彩乃はまだ混乱したまま口を開いた。

「あの......私のこと覚えてませんか?」

(え? 何言ってるの私!)

 言った瞬間後悔した。いきなりそんな話をするつもりはなかったのに、ついぽろりと出てきてしまった。

 彼が彩乃を忘れているのは明らかなのに、いきなり覚えてる?と聞くなんて責めているように受け止められてもおかしくないというのに。

 いや、軽薄で押し付けがましいと思われたかもしれない。

 実際彼は驚いたように、目を丸くした。

「あの、実は私たちは三年前に......」

「覚えてるよ。パリで会ったよな」

「は、はい。そうです」

 予想外にあっさり話が通じたので戸惑いながら、彩乃はこくこくと首を縦にふる。

(よかった、覚えていてくれたみたい)

 それとも忘れていたけれど、彩乃に言われて記憶が蘇っただけなのだろうか。どちらにしろ思い出してくれたことがうれしかった。

 緊張していたことなど忘れて、彩乃は丁寧に頭を下げた。

「あのときは、困っているところを助けて頂きありがとうございました」

「いや、そんなお礼をして貰う程、大したことはしてないよ」

「いえ、とても助けられたので、感謝していたんです」

 言葉の通り蒼士にとっては大した出来事ではなかったのだろう。ずっと彼を忘れないでいた彩乃にとってそれは寂しい事実だけど。

 蒼士は彩乃から視線を逸らし、引き戸の向こうに広がる外の景色に目を向けていた。

 それ程広さはないが、枝葉が綺麗に切りそろえられた樹々が並び、眺めを楽しめるようになっている。

 顔見知りだと確認できたからだろうか。気まずさはいつの間にか消えていて、彩乃も穏やかな気持ちで彼と同じように景色に目をけた。

「あのとき会った君と、まさかこうやって再会するとは思わなかったな」

 蒼士がぽつりと呟いた。それは彼の本心なのだと伝わってきた。

「本当ですよね。私もお見合いの相手が北条さんだと聞いて、すごく驚きました」

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