再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 蒼士が外に向けていた視線を彩乃に戻した。

「俺も驚いたよ。さっき初対面のふりをしたのは、君がパリでのことをご両親に話しているか分からなかったからなんだ」

「そうだったんですね。気を遣ってくれてありがとうございます。おっしゃる通り両親には話せていなくて。帰国したときは、現地で知り合った男の人とふたりで食事に行ったなんて言ったら心配させちゃうかと思って黙っていたんです。お見合いが決まってからも、なんとなく言い辛くて。父は社会人になった今でも過保護なところがあるから」

 彩乃の言葉に、蒼士がふっと微笑んだ。

「ご両親と上手くいっているようだな」

 彼の微笑みがパリで見たときと同じように優しくて、うれしい気持ちがこみ上げる。

(あのとき、私が話したことを、覚えていてくれたんだ......)

 彼が励ましてくれたから、塞ぐ気持ちから抜け出したし、帰国してからも卑屈にならずに両親に素直に接することが出来た。

「はい。仲良くしています」

「よかった」

 蒼士との間に漂う空気は柔らかで、ますます思い出が蘇る。

 それでもあまり過去の話をするのは、気が引けた。

 蒼士は、大したことではないと言っていたし、あのときの出来事に対する重みが違うのは明らかだから。

「滝川さんはこの縁談に抵抗はなかったのか? まだ二十五歳になったばかりで仕事にも慣れて来たところだろう?」

「両親から話を聞いたときは驚きましたけど、でも抵抗はありませんでした。父が信用する相手なら安心出来ると思ったので。それに私は人見知りなところが有るので、お見合いは私に合う出会いの場だと思ったんです」

 実際よりもかなり見合いに前向きな発言なるのは、蒼士に嫌々来たのだと思われたくないからだ。

「それから、両親に安心してもらいたくて......」

 蒼士は納得したように頷いた。それから彩乃をまっすぐ見つめて口を開く。

「それなら俺と結婚してほしい」

 その言葉に彩乃は内心かなり驚いた。彼がこれほどこの見合いに積極的だとは思っていなかったのだ。

 話を進めるということは、結婚を決意するという意味だ。

「あの......私は問題ありませんけど、北条さんは大丈夫なんですか?」

「え?」

「結婚相手が私でいいのかと思って。北条さんは優秀な警察官僚だと聞いています。私よりもずっといい人と出会うチャンスは沢山ありそうだから」

 その発言は意外だったのか、蒼士がまじまじと彩乃を見つめる。それからくすりと笑った。
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