再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 ふたりとも結婚に乗り気だと伝えると、父は大喜びをした。


 蒼士を相当買っているようで、とても満足なようだった。

 その後、日を改めて話し合いをして結婚式は一年後に挙げるが、婚姻届けはすぐに提出して、蒼士が暮らすマンションで新婚生活をはじめることに決まった。

 引っ越しの日、荷物は前もって業者に任せ、彩乃は蒼士の迎えの車で家を出ることになった。

 両親は車の前にまで来て彩乃を見送ってくれた。

「頑張るんだよ。困ったことが有ったらいつでも相談するように」

 父が名残惜しそうに言う。母も心配そうな表情だ。

「彩乃がこんなに早く出て行くとは思っていなかったから寂しいわ。蒼士さんと仲良くするのよ。寂しくなったらいつでも戻って来ていいんだからね」

「お父さん、お母さん......ありがとう」

 心から心配して愛情を与えてくれる両親に、彩乃は感謝の気持ちでいっぱいになった。

(これまで育ててくれてありがとう)

 自然とそんな言葉が浮かんだけれど、結婚式の日まで取っておこうと思う。

「北条君。娘を頼んだよ」

 父が蒼士を見つめて告げる。

「はい。お任せください」

 蒼士は上官に応えるように、真(しん)摯(し)に応える。

 車が走り出しても両親は、ずっと手を振っていた。

 バックミラーでその様子を見ていた彩乃の胸に切なさがこみ上げ、目の奥が熱くなる。

「大丈夫か?」

 そんな彩乃に蒼士が声をかけて来た。

「あ、はい。少し寂しくなっただけです」

 彩乃は瞬きをして涙を引っ込めてから隣に顔を向けた。

 運転中の蒼士は真っ直ぐ前を向いている。端整な横顔が憂いを帯びている気がしたが、それは彩乃の勘違いのようで彼は明るい声音で言った。

「早速ホームシックか?」

「違いますよ。ちょっと別れの寂しさを感じてただけです」

「マンションから実家まではすぐだ。いつでも帰れる」

「そうですね。でもしばらくは新しい暮らしに慣れるように、頑張ります」

 彩乃は意識して笑顔をつくる。すると蒼士の雰囲気が柔らかくなった気がした。

「それなら婚約者を悲しませないように、俺が頑張らないといけないな」

「あ、ありがとうございます......」

 蒼士が暮らすマンションは彼の通勤に便利な東京駅近くにある。

 住宅街に溶け込む低層階の造りで、通りから奥に入っているおかげで静かで落ち着きがある環境だ。
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