再会したエリート警視とお見合い最愛婚
予定外のプロポーズ 蒼士side

「北条君、見合いをしてみないか?」

 九月中旬。上官の佐藤と、警視庁近くの定食屋で昼食を取っている最中のことだった。

 まるで飲みに行かないか?とでもいうような、なんの前置きもない軽い言葉。

 しかし内容は軽く流されるものではないものだ。

 蒼士は溜息を吐きたくなる気持ちをぐっと抑えた。

 テーブル越しに向き合い座る佐藤は、現在蒼士が所属している警視庁捜査二課トップの課長だ。階級は警視正で蒼士と同じキャリアである。

 今年四十才になるが、柔和な顔立ちと、細身の体型のせいで、実年齢よりも若く見られることが多い。

 性格は驕(おご)ったところがなく穏やかで気さくと申し分が無く、同僚からも部下からも慕われている。仕事の後に何人か連れて飲みに行くことも度々あるようだ。

 しかし彼が、部下に結婚を斡旋するなんて話はこれまでに一度も聞いたことがない。ということは、彼の更に上からの話の可能性がある。

「今のところ結婚するつもりはありませんが、簡単に断るのは難しい話しだということですね?」

 佐藤が真顔で頷いた。

「当然だ。驚くなよ? お相手は滝川次長のご令嬢だ」

 佐藤が周りに聞こえないように、声を潜めて言う。

 それでもしっかりと耳に届き、蒼士は思わず目を見開いた。

 滝川次長と言えば、警察庁のナンバー2、次期警察庁長官の最有力候補であり蒼士にとっては雲の上の存在だ。

 国家公務員総合職試験を通過したキャリアの中でも、そこまで上り詰めることが出来るのは、ほんの一握りの狭き門だが、その椅子に座れば警察組織に於いて絶大な権力を握ることになる。
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