再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 大物政治家が関わっている可能性もあり、今は慎重に確実な証拠を探しているところだ。
 
大事な時期で今は仕事に集中したいと言うのに。

(お嬢様との縁談か......)

 プライドを傷つけないように断るのは、骨が折れそうだが、長引かせないように断らなくては。

 佐藤に気付かれないように、溜息を吐いた。

 蒼士の想いとは裏腹に、見合い話は順調に進んでいった。

 佐藤から打診された翌日には、滝川次長から連絡が入り、彼と昼食を共にすることになった。

 えらく価格が高い蕎麦屋で、邪魔が入らないように個室が用意されていた。

 最終面談のようなものだろう。

「北条君よく来てくれたね。今日は君と話したくて来てもらったんだ。プライベートの場だから楽にしてくれ」

 そう言われても、キャリアでも簡単にはお目にかかれない次長の前では、さすがに緊張が隠せない。

「北条君は大使館に出向していたんだね。向こうはどうだった?」

「想像していた以上に治安の悪化が進んでいました。日本での経験を生かすのが難しく、現地に合わせた警備計画を立てるのは.........」

 硬い会話がしばらく続く。

 初めはかなり気を張っていたが、途中で見合いを回避するには、下手に彼に気に入られない方がいいのだと気が付いた。

「佐藤課長から聞いたと思うが、娘の結婚相手には北条君がいいのではないかと考えているんだ。君はどう思うかね? あまり乗り気にも見えないが私の娘では不満かね?」

 本題に入った。滝川次長の威圧感に流されてはいけない。

「私はお嬢様の人となりを知りませんから、そのご質問には答えられません。ですが今は家庭を築くよりも仕事に集中したいと思っています。お嬢様の縁談相手に私が相応しいとは思いません」

「なるほど、噂どおり嘘がつけない正直な男だな、度胸もある」

「いえ、必要な嘘はあると考えています」

 蒼士はすぐさま否定した。自分はそんな清廉潔白な人間ではない。

「刑事なら駆け引きするのは当然だが、私にその返事をするのは面白い」

 それからは礼節を守りながらも、遠慮なく自分の考えを述べた。滝川次長から見たら生意気な態度に移っただろう。

 我ながら怖いもの知らずだとは思ったが、これで縁談はキャンセルに違いない。
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