再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 そう思っていたのに数日後に、見合いの日程が決定した連絡が入った。

 一度会って判断して欲しい。その結果断るのは自由だし、蒼士に不利益がかかないようにすると約束するのこと。

 失格なるどころか、なぜか滝川次長に気に入られてしまったようだ。

 翌日には令嬢の身上書が手元に届いた。

 自宅に帰った蒼士は、浮かない気持ちで身上書を手に取った。気は進まないが見るしかない。

 ところが、そこに記されていた令嬢の名前を見た瞬間、蒼士の気持ちはがらりと百八十度変化した。

「......滝川彩乃?」

 思わず声に出した名前は、蒼士が知っている女性のものだ。

 三年前に、蒼士の沈んでいた心を励ましてくれた、忘れ難い人。

 写真を確認すると、記憶の中の彼女がそこに居た。

 少し大人びた気がするけれど、優しさが浮かぶ丸い目と、可愛らしい小さな口と、少し下がり気味の眉の愛らしい顔はあのときのままだった。

(まさか......こんな偶然ってあるのか?)

 いつか再会したいと願っていた彼女が、自分の見合い相手になるなんて。

 蒼士にしては珍しいくらい動揺している。

 身上書に目を走らせ、彩乃の経歴を確認した。

 代々警察官僚を輩出することで有名な滝川家の長女。父親は現警察庁次長。

 母親は一流企業の元社長令嬢。

 彼女自身は私立の名門女子校から大学まで進み、国内でもトップクラスの法律事務所に就職。趣味は楽器演奏と舞台鑑賞......まさに絵に描いたようなお嬢様だ。

「それなのに、パリにひとり旅って......滝川次長もよく許したな」

 初めて会ったとき、現地の子供の面倒を見ようとしてまんまとスリに遭いそうだったときの姿を思い出し、蒼士は頬を緩めた。

 彼女は素直で少しも驕ったところがなく、世間知らずで危なっかしいけれど赤の他人にすら優しくて、心が深く傷ついても前を向いて立ち直る強さを持った人だった。

 身上書から受けるイメージとはまるで違う、素の彼女を蒼士はもう知っている。

 懐かしさがこみ上げ、優しい気持ちが胸の奥からこみ上げた。

「彼女も今ごろ俺の身上書を見て驚いているのかもな」

 あの愛らしい丸い目を、更に丸くしているかもしれない。けれど。

(彼女はパリでの出来事を、父親に話していないようだな)
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