再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 もし彩乃が話して蒼士の名前を伝えていたとしたら、滝川次長は面談のときにその件に触れただろう。三年前のことだが、滝川次長なら名前から蒼士の身元を調べるくらいしただろうし、調査しなかったとしても名前を忘れはしないはずだ。

 しかし何も言わなかったし、試している気配もなかったのは、彩乃から何も聞いていない証拠だ。

 娘に無関心だとは到底思えない。彩乃本人が両親に大切に育てて貰ったと言っていたし、行動にも表れている。

 あのとき、暴動が起る前に彩乃は予定を早めて帰国していた。急遽帰国したと聞いたときは巻き込まれずに済んで運が良かったと思ったが、今思えば滝川次長が娘を心配して帰国を促したのだろう。

(パリでの出来事を両親に話さなかったのは、心配させたくなかったからだろうな。だとしたら、見合いの席では初対面のふりをした方がいいか)

 蒼士は彼女の生まれについて聞いてしまっている。もし滝川次長が知ったら気を悪くし、彩乃が気まずい思いをするかもしれない。
 そんなことを考えていた蒼士は、手のひらを返したように見合いに乗り気になっている自分に気が付き苦笑いになった。

 ただ彩乃はどう思っているのだろう。

 彼女は蒼士よりも七歳も年下だから、まだ結婚は考えていないような気がする。

 親に言われて仕方なく来るのか......いや、彼女のことだから蒼士との再会を楽しみにしてくれているように思う。

 蒼士を結婚相手として考えているかは分からないが。

 元々上手く断るつもりでいたが、彩乃が相手となった以上、滝川次長経由ではなく本人と直接話してみたい。

 いろいろ考えなくてはならないことはあるが、蒼士は彩乃との再会を楽しみに感じていた。

 見合い当日。再会した彩乃は華やかな着物姿だった。

 綺麗な二重の丸い目に、アーチ型の眉毛。鼻も口も小作りだから目の印象が強い。思わず触れたくなるような滑らかな肌は日焼けを知らないかのように白い。品があり見るからに清楚な令嬢だが、ほっそりした首からのラインに密かな色気がある。
 
写真を見たときは以前とあまり変わっていないと感じたが、実際見ると記憶よりも大人びて美しくなっていて、気付けば見惚れてしまっていた。

 彩乃は蒼士の顔を見た途端に嬉しそうに顔をほころばせた。再会を喜んでいる様子が見て取れたが、上司ふたりがいる前では、懐かしむ訳にはいかず平静を装う。

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