再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 彩乃とようやくふたりきりになれたのは、それからしばらくたってから。
 
彼女が言うには、やはりパリでの出来事は心配させてたくなくて家族に話していないとのことだった。

 おっとりしていて、ころころと表情が変わる素直なところは、以前と変わらなくて、懐かしさがこみ上げる。

 いろいろ話したいことがある。彼女の近況も聞いてみたい。けれどまずは彩乃が結婚についてどう考えているかを確認しようと質問した。

「滝川さんはこの縁談に抵抗はなかったのか? まだ二十四歳で仕事にも慣れて来たところだろう?」

「両親から話を聞いたときは驚きましたけど、でも抵抗はありませんでした。父が信用する相手なら安心出来ると思ったので。それに私は人見知りなところが有るので、お見合いは私に合う出会いの場だと思ったんです」

 彼女の返事は蒼士が予想していたよりも、前向きに結婚を意識しているものだった。

 それは相手が蒼士だからと言う訳ではなく、父親への信頼からくるものだ。そう分かっているけれど。

「それなら俺と結婚してほしい」

 蒼士は彩乃にプロポーズと同意の言葉を伝えていた。今日具体的な話をするつもりなど無かったと言うのに、再会した彼女を前にしていたらそう言わずにいられなかったのだ。

 あの日、蒼士を慰めて心を楽にしてくれた彼女となら、この先の人生を助け合いないながら生きていけると思う。

 それでも性急過ぎたかと心配になった。

 彩乃のような育ちがよくて性格が温厚な女性なら、縁談相手などいくらでもいるだろう。

 蒼士よりも若く彩乃と話が合いそうな後輩の顔が何人か思い浮かぶ。そうでなくても、美しいだけでなく朗らかで優しい彩乃なら、世の中の男は放っておかない。

 しかし彩乃は恥ずかしそうにしながら受け入れてくれた。

 むしろ「私で大丈夫ですか?」などと自分は蒼士に釣り合わないと思っているようなことまで言う。

「北条さんは優秀な警察官僚だと聞いています。私よりもずっといい人と出会うチャンスは沢山ありそうだから」

「ずいぶん謙虚なことを言うんだな。次期警察庁長官令嬢との縁談なんて、誰もが羨むようなものなのに」

 本心からの発言だったが、彩乃はがっかりしたように俯いてしまった。言葉選びに間違ってしまったようだ。
< 39 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop