再会したエリート警視とお見合い最愛婚


「俺は今日休暇で時間があるんだ。よかったら観光案内をするが」

「えっ?」

 思ってもいなかった提案をされて、彩乃は目を丸くする。

「最近日本人観光客のスリや事件に巻き込まれるなどの被害報告が続いているんだ。君はどうも危なっかしく見えるし、このまま別れるのは心配だ。ただ余計なお節介だとしたら遠慮なく断ってくれ」

「お、お節介なんてことはないです、ありがたいです!」

 彩乃は慌てて否定する。

「ただお休みのところ、私なんかに付き合って頂くのは申し訳なくて」

「どうせ暇をしていたんだから構わない。どうする?」

 蒼士がそう言って彩乃を見つめる。澄(す)んだ目からは、純粋な親切心を感じる。

 面倒見がよいうえに、大使館で働いている身元がしっかりした人物だ。

 彩乃は人見知りという訳ではないが、初対面の男性と仲良く話せるタイプではない。警戒と言う程ではないが、壁を作ってしまう。

 それなのに蒼士に対しては、苦手意識を感じない。それどころか親しみを感じている。

(......お願いしちゃおうかな)

 ひとり旅を楽しんではいるが、心細さもあったのだ。

「あの、本当にご迷惑でなければ、お付き合いいただいてもいいですか?」

 彩乃が遠慮がちに言うと、蒼士が明るい笑顔になった。

「ああ。まずはシャンゼリゼ通りにでも行ってみるか?」

「はい。観光でお勧めされていたところは、滞在中に一通り回ってみたいと思っていたんです」

「それなら凱旋門に行くのもいいな。着く頃には日が暮れているだろうが」

 蒼士の提案に、彩乃は張り切って頷いた。
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