一度は諦めた恋なのに、エリート警視とお見合いで再会!?~最愛妻になるなんて想定外です~
(もしかして父親の権力目当てのように聞こえたのか?)

 そうじゃない。彩乃自身に価値があるのだ。

 蒼士はすぐに誤解を解こうと口を開こうとした。けれどそのとき遠くから誰かが近づく気配がした。

(滝川次長たちが戻ってきそうだな)

 見合い相手とはいえ、愛娘を長時間男とふたりにしておくのは心配なようだ。彼らが来るまでに自分の意思をはっきり伝えておかなくては。

「俺も君との縁談を進めたいと思ってる」
「......はい」

 蒼士の言葉は端的で飾り気のないものだった。それでも彩乃は照れた様子で受けいれてくれた。

「うまくいったようでよかったな」

 滝川次長と彩乃を見送り、ほっと息をつくと佐藤が蒼士の肩をポンと叩いて言った。

「はい」

 蒼士は冷静に相槌を打った。

 彩乃との結婚が決まり胸中は舞い上がっているが、上官の前でそんな顔を見せるわけにはいかない。

「佐藤課長のおかげでよいご縁を頂きました。感謝します」

「いや、彩乃さんを射止めたのは、北条君の実力だよ。彼女、君を見た瞬間すごくうれしそうな顔をしていたからね。もしかして一目ぼれだったのかもしれないな」

「それは、どうでしょうか......」

 肯定はできないが、謙遜しすぎるのもよくないので、曖昧に誤魔化すしかない。

 佐藤は上機嫌に見合いの席での話を続けていたが、突然笑みを消して蒼士を見つめた。

「確認していなかったが、築地署の南君とは、特別な関係じゃないんだよな?」

 深刻そうな佐藤の様子に、蒼士は戸惑い眉をひそめる。

「どういう意味ですか?」

「プライベートについてはあまり言いたくないんだが、南君と親しくしているだろ?ふたりでいるところを何度か見かけたから」

「彼女は同期で気安い関係ですが、プライベートでの付き合いは一切ありません」

 蒼士はすぐさまはっきり否定した。

「それならいいんだ。北条君が不誠実な行為をするとは思っていないが、滝川次長に君を推薦した手前、ほんのわずかな憂いも晴らしておかなくてはならないからね。念のため確認させてもらったんだ。気分を悪くさせてしまったのなら申し訳ない」

「いえ。佐藤課長の立場は理解しています」

 蒼士に問題が有り破談になったら、佐藤も滝川次長に合わせる顔がなくなるだろうから、必要以上に心配しても不思議はない。

 佐藤はほっとしたように表情を和らげた。

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