再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 その後すぐに婚姻届けを提出して、彩乃と夫婦になり蒼士のマンションで暮らし始めた。

 大学入学時に実家を出てからひとり暮らしをしているから、誰かと一緒に暮らすということに多少の不安はあった。自分が人に合わせることが出来るのかと。

 けれど、彩乃は一緒に居ると楽しく安らぎを感じる。

 初めて会ったときに波長が合うと感じたが、その勘は間違っていなかったようだ。

 彩乃が新しい家に慣れるまで、蒼士はなるべく家に居られるように努力し、少なくとも夕食は必ず一緒に取るようにした。

 早く帰宅した日などは、それまで飲み物を取るくらいしか立ち寄らなかったキッチンに、彩乃と並んで立つようになった。

 髪をお団子にしてモスグリーンのエプロンを付けた彩乃は料理をしているときも上品にみえる。

 いつも真っ直ぐ背筋を伸ばす彼女は、立ち振る舞いが美しい人だ。

 そんな彼女が、せっせとジャガイモの皮を剥(む)きながら蒼士の手元を見て感心したように言う。

「蒼士さん、意外と手慣れた感じですね」

「フランスに居た頃、必要に迫られてときどき自炊していたんだ。帰国したら手ごろで上手いものがいくらでもあるから、キッチンに近付かなくなったが」

「そうなんですね。たしかに牛丼とかは家で作るよりも安くて美味しいですもんね」

 意外と庶民的なことを言う彩乃に、吹き出しそうになった。

「彩乃もなかなか手際がいいな」

「料理教室で習ったので。でも実は家では初めてつくるから、少し心配かも」

「......まあ、なんとかなるさ」

 それからふたりで、楽しみながら料理を続けた。

 出来上がった料理は正直に言うと微妙で、同じように複雑そうな顔をしていた彩乃と「失敗したね」と笑い合い、いまいちのはずの料理を気付けばふたりで完食していた。

 そんな平和な日常が、意外に楽しいと蒼士は幸福感を感じるのだった。

「彩乃さんの引っ越しは無事に終わったのか?」

 会議室に向かっていると、後ろから佐藤が追いかけて来て隣に並んだ。

「佐藤課長。ええ、問題ないですよ」

 蒼士は表情を変えずに答える。

「そうか。上手くいって良かったな。これで将来は安(あん)泰(たい)だ。北条を紹介した甲斐があった」

「ありがとうございます」

 得意満面の佐藤に、蒼士はつくり笑いで答えるが、内心では溜息を吐いていた。
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