再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 彩乃と結婚したのは出世欲とは関係がないのに、周囲はそう受け止めていない。仕方ないこととはいえ、煩わしい。

「俺の同期は議員令嬢と結婚したんだ。そいつとはやっぱり出世の面では差がつけられていると感じるよ。俺も強力なコネがあるお嬢様とお見合いをすればよかったな」

 佐藤の口ぶりは冗談めいていて軽口だと分かるが、蒼士はざらっとした不快感を覚えた。

 佐藤の笑顔の下には、何かドロドロしたものが潜んでいるような、彼の本音は別にあるのではないか、そんな気がするのだ。

(いや、考え過ぎだ。佐藤課長はそんな人じゃない)

 蒼士や同期を羨むようなことを言っているが、佐藤自身も捜査二課の課長に就き順調に昇進していると言える。

 キャリアには昇進試験と言うものはなく、時期が来ればほぼ横並びで階級が上がる。差がつくのはどのようなポストに就いてきたかになるが、佐藤の経歴は不満を言うようなものではない。

 同僚からの信頼も厚いし、人を羨む必要などない人だ。

「......佐藤課長の奥さんは元警察官でしたよね」

 とても仲がよい夫婦だと聞いたことがある。

「ああ。三十になったばかりの頃に居た地方の警察署で出会ったんだ。結婚後は家庭に入っているが、仕事に理解があるから助かってるよ」

 佐藤は朗(ほが)らかな笑顔を見せる。
 
やはり自分の勘違いだと、蒼士はほっとした気持ちになった。


 会議室には既に捜査員たちが集まっていた。
 
 この捜査会議の責任者である佐藤が、全員を見渡せる上座に座った。
 
 蒼士は管理官として、佐藤の下についており、この捜査本部ではナンバー2になる。
 
 現在捜査しているのは、携帯電話をはじめとする通信機器販売に於(お)いて国内で最大規模を誇る、『テレサ通信』理事、三枝の横領疑惑だ。

 テレサ通信の社員からの密告を端緒として捜査が始まった事件は、三枝本人に取り調べをして、八千万円を横領したとの自白が取れている。

 しかし三枝の口座の履歴を照会すると、明らかにそれ以上の金額の入出金があった。

 被疑者が取り調べで嘘を吐くことは決して珍しいことではなく、むしろよくあることだから驚きはしなかった。

 次にテレサの経理データを確認した。すると三年程前から、不自然な支払いが散見された。
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