再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 一つひとつは大きな金額ではないが、テレサと取引をしているとは考え辛い会社に振り込みをしていた。しかし調べるとどの会社も実態がない。つまり、多数の口座を取りまとめた後、足がつかないよう海外に資金を移した可能性がある。

 問題は移した資金の使い道だ。三枝は自白よりも遥かに高額な金額を会社から不当に得ているのは間違いないと考えられるが、それでも到底金額が合わない。

 三枝は横領後に出所を隠した金を、自分で使う以外にもどこかに流している。いわゆる賄賂を行なっていると見て間違いないのだ。
 それはいったい、誰に対してなのか。

 知能犯捜査のプロである二課の刑事の捜査を持ってしてもなかなか尻尾が掴めない。

 そんな中蒼士は、三枝と衆議院議員、内島和久(うちじまかずひさ)元総務大臣の関係に疑問を持ち、直属の部下である新(しん)藤(どう)係長と彼の係の捜査員に密かに探らせていた。

 会議が始まると蒼士は、椅子から立ち上がり着席する部下達を見回してから口を開いた。

「テサラ通信理事三枝と、代議士内島和久に接点が見つかった。内島は電気通信法が改正された三年前に総務大臣を務めており、法改正に係る有識者会議メンバーの選定に強い影響力を持っていたから、三枝が賄賂を贈る理由が充分にある。そこで内島の周囲を探ることにした」

 この情報を捜査会議で報告するのは今日が初めてなため、室内がどよめいた。

 蒼士の隣に座る佐藤も、呆気にとられたような目で蒼士を見つめている。

「新藤係長、報告を」

 蒼士の鋭い声に、新藤がすかさず立ち上がった。彼は蒼士よりも三歳年下の二十九歳。小柄で童顔で一見頼りなく見えるが、体力も根性もそこらへんの男では太刀打ちできない強さがある。先日警部に昇進し、ますますやる気を漲らせている。

「五ヶ月前に、三枝と内島議員の私設秘書の奈(な)良(ら)野(の)が、銀座の高級レストランで会っていた確認が取れました。レストランのスタッフによると、ふたりが同時に来店したのは、その日が初めて。かなり時間が経っているのに記憶していたのは、三枝が激高して怒鳴り声を上げるなど目立つ行動をしていたからとのこと。激高した原因は不明です」

 蒼士は頷き口を開く。

「三枝と奈良野の間に、個人的な接点は?」

「今のところ認められません」
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