一度は諦めた恋なのに、エリート警視とお見合いで再会!?~最愛妻になるなんて想定外です~
デートのち別居
秋が深まりはじめた十月下旬。蒼士と暮らし始めてそろそろ一カ月になろうとしていた。
ふたりの関係は良好で問題なく生活している。
ひとつだけ悩みがあるとすれば、彼との関係は夫婦というよりもルームメイトのような感じで、これからも変化していきそうな気配が少しもないことだ。当然のように夫婦としてのスキンシップは一切ない。
蒼士が結婚相手に彩乃を選んだのは、警察組織内で高い地位に就く父の娘だからで、恋愛感情がある訳ではないと初めから分かっていた。
それでも一緒に暮していたら、彼の気持ちが変わるかもしれないと彩乃は淡い期待を抱いていたのだけれど、現実はそう簡単にはいかない。
(焦っても仕方ないって分かっているけど......)
彩乃は蒼士への気持ちが日々大きくなるのを感じている。
一緒に食事をして、一日に会ったことを話したり。ふたりで過ごす時間が増えるにつれて、彼が好きだとしみじみ実感するのだ。
だから、ふたりの気持ちに温度差がある事実にがっかりするし、早く両想いになれたらいいのにと焦ってしまう。
(どうすれば、好きになって貰えるのかな......)
やはり一緒に過ごす時間を増やすのが一番だと思うが、最近は蒼士の仕事が忙しく、同居していると言っても、あまり顔を合わすタイミングがない。
彩乃が引っ越して来たばかりの頃は、帰宅が早く一緒に料理をしたりと、仲良く過ごしていたけれど、今思うと無理をして帰って来てくれていたのだと思う。
(新しい家に慣れていない私を気遣ってくれたんだろうな......)
そういう優しさのある人なのだ。
(だから好きなんだけど......)
彼のおかげで、新しい家に馴染むことが出来た。もうすっかり自分の家として寛ぐことが出来ている。
けれど広い家にひとりで居るのともては寂しいものだ。
シャワーを浴びて汗を流した彩乃は、冷蔵庫からアイスを取り出してからリビングのソファに腰を下ろした。
最近気に入っている、プリン味のモナカで、毎晩のように食べている。
「とくにお風呂上りに食べるのがいいんだよね」
独り言を言いながら、袋を開けてぱくりと早速一口食べたとき、玄関の方で物音がした。
(え? 蒼士さん?)
時刻は午後九時過ぎ。深夜帰宅が続いていて蒼士が帰ってくるには早すぎる時間だ。
リビングの扉が開き、蒼士が入って来た。
彼はモナカ片手に驚いた顔をしている彩乃に気付くと、一瞬の間の後、破顔した。
「ほっぺが膨らんでるぞ?」
指摘されて、彩乃は顔が赤くなるのを感じながら、口の中のモナカを急ぎ噛んで飲み込んだ。
「......ちょっとびっくりして想像以上に大きな一口になっちゃいました」