再会したエリート警視とお見合い最愛婚
「行きたいです! 夜はライトアップされてすごく綺麗だって、ガイドブックでおすすめされていたので」

「王道が好きみたいだな」

「他を知らないからかもしれません。マイナーなところでお勧めってありますか?」

「そうだな......」

 蒼士は彩乃の質問に答えながらも、迷いなく足を進める。
 シャンゼリゼ通りの真ん中あたりまでメトロで移動し、そこから徒歩で凱旋門に向かうそうだ。 

 通りは驚くくらい広く華やいでいた。高級ブランドのショップが立ち並ぶ様を眺めるだけでも心が弾む。

 蒼士が隣に居てくれるおかげで、安心して眺めを楽しめる。

「パリにはいつ?」

「昨日です。でも到着時間が遅かったので、ホテルで寝ただけです」

「今日は美術館巡りをしたって言ってたな」

「はい。ルーブル美術館とオランジェリー美術館を見て回ったんですが、どちらも期待していた以上に素晴らしかったです。他にもヴェルサイユ宮殿も行きたいしセーヌ川のクルーズも体験したいんですけど、三泊四日なので全てを回るのは難しいですよね」

「それなら今日は水上バスで移動すればよかったんじゃないか? 移動しながらセーヌ川からの眺めを楽しめるだろ」

「え......そんな素敵な移動手段があるんですか?」

 彩乃が驚きの声を上げると、蒼士が呆れ顔になる。

「スリの件といい、ちゃんと調べて来てないだろ?」

 図星をつかれて彩乃は誤魔化し笑いをする。

「実はそうなんです。急に決まった旅で、あまり調べる時間がなかったもので」

「急にって、まさか思いつきで来たんじゃ......」

「半分あたりです」

 彩乃はわりと慎重な方だ。冒険よりも安全を求めるタイプだと自覚がある。

 ひとり旅に行こうと考えたことは一度もなく、行きたいとも思っていなかった。

 けれど、そんな価値観を吹き飛ばすような、現実から逃げ出したくなるような衝撃的な出来事が起きて、東京を飛び出したのだ。

 少しの間でいいから知っている人がいないところで、過ごしたかった。

「いくら海外旅行が身近になったからと言って、無計画はなにかと危険だぞ」

「そうですね。今後は気を付けます」

 素直に返事をすると、蒼士は「本当に分かってるのか?」と呆れたように肩をすくめる。

 実際呆れているのだろう。それでも面倒を見てくれるのは、彼がよい人だからなのだと思う。
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