再会したエリート警視とお見合い最愛婚

 あの夜から一週間が経った。

 それまで彩乃を妻として見ていない様子だった彼が、どうして抱こうと思ったのか、彩乃はずっと考えていた。

 もしかしたら、好きになってくれたのだろうか。

(そうだったらいいけど、多分違うよね......)

 翌日の朝、蒼士の口から咄嗟に出た「ごめん」という言葉。

 あれは酔った勢いでの出来事だったからこその発言だったのだろう。

 残念だが、夫婦としての愛情が芽生えた訳ではないと思う。

 それでも彩乃に後悔はない。

 不安がないとは言わないけれど、彼との関係が一歩前進したと考えた方が前向きになれると自分を励ます。

 ただどうにも気まずくなってしまった。

 恥ずかしいというのもあるけれど、こんなときどんな言葉をかければいいのか分からない。

 蒼士の帰宅時間が遅くあまりふたりで話す時間がないということもあり、ややぎくしゃくした関係が続いていて、彩乃はなんとかしたいと思っていた。

 そんな週末の金曜日。蒼士が予想よりも早く帰宅した。

「蒼士さん、お帰りなさい」

 気まずさはありながらも、笑顔で声をかける。

「ただいま」

 彼も優しく答えてくれた。

 お互いあの夜の出来事を気にしているけれど、口にしない。

 それは気遣いなのか、それともなかったことにしたいのか。

(いけない、また悪い方に考えそうになっちゃった)

 彩乃は浮かんだ後ろ向きな考えを振り払うように、笑顔で言葉を続ける。

「蒼士さん、今日はいつもより早かったけど、仕事が落ち着いたんですか?」

 もしかしたら明日からは、一緒にいる時間が増えるのだろうか。期待をしたが蒼士は「いや」と否定した。

「一時期よりは落ち着いたが、まだ当分かかりそうだ」

「そうなんですか......」

 彩乃はがっかりして肩を落とした。

 彼が所属している警視庁捜査二課は、選挙違反や贈収賄事件など知能犯罪を扱う課だ。他の課でも同様だろうが、家族に捜査内容は秘密で、だから彩乃は蒼士が今具体的に何をしているのは分からない。

 急に呼びだされたり、泊まりになったり、一緒に暮していると、心配になることが多々あっても、教えて貰えない。

 幼い頃から父の姿を見て来たから、そういう仕事だと知っていたけれど、どうしても心配になってしまう。

「ただ明日は一日休みが取れた。彩乃も休みだろう? 天気も良さそうだし出かけようか?」

「え? 本当に?」

「ああ。あまりふたりで出かけられてないし、彩乃の都合が良かったら」

 思いがけないうれしい提案に、喜びがこみ上げる。

「大丈夫。出掛けたいです!」

 彩乃に釣られるように、蒼士も微笑む。

「それならどこに行く? 彩乃が行きたいところにしよう」
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