一度は諦めた恋なのに、エリート警視とお見合いで再会!?~最愛妻になるなんて想定外です~
 そう頭では分かっていてもショックだった。

 日中が楽しかった分、落差が激しくて、笑顔で「分かりました」と了承するのが難しい。

 なかなか言葉が出て来ない彩乃に、蒼士が困ったように言う。

「実家には滝川次長がいらっしゃる。俺もその方が安心し仕事ができるんだ」

「でも、いきなり戻ったら父がなんて言うか......」

「それは大丈夫だ。さっき滝川次長に電話をして、事情を説明しておいた。快く了承してくれた」

「お父さんに? ......そうですか」

 胸が突かれたように鋭く痛む。

(お父さんに連絡までするなんて、蒼士さんの気持ちはもう固まっていたんだね)

 彩乃が何と言おうが、これは決定なのだ。

「......分かりました」

 心の中はぼろぼろだけれど、無理やり笑顔をつくってそう言った。

 罪悪感があるのか、蒼士が顔を曇らせる。

「俺の勝手でごめんな。なるべく早く迎えに行くから」

 蒼士は嘘をつかない人だ。でも今だけは彼の言葉を心から信じることが出来ない。

 彩乃は気持ちが暗く沈んでいくのを感じていた。


 翌日の昼前に、彩乃は蒼士に送られて実家に戻った。

 車中で蒼士は彩乃を気遣うように、声をかけて来てくれたが、泣きたい気持ちを堪えて笑顔をつくるのでせいいっぱいで、会話の内容はほとんど頭に入ってこなかった。

 マンションから自宅までは三十分もかからない。

 あっという間に到着して、長く暮らした屋敷の門が見えて来た。

 敷地内に車を停めていると、玄関が開き両親が出迎えに来てくれた。

 彩乃の荷物を車から降ろしていた蒼士は、彩乃の父に気付くと深く頭を下げる。

「滝川次長。この度はご協力頂きありがとうございます」

「構わないよ。彩乃は心配要らないから、任務を果たしなさい」

「はい」

 彼は父との会話が終わると、彩乃に顔を向けた。

 何か思い詰めているような表情に、綾乃は息を思わず呑んだ。

「彩乃、俺の我儘でごめん。迎えに来るまで待っていてほしい」

「うん、待ってます」

 早く迎えに来てほしい。その言葉を彩乃は口に出せずに飲み込んだ。

 挨拶をおえると、彼は仕事があると五分もしない内に車を走らせ去って行ってしまった。

 彩乃に何の未練も無さそうなその態度に、ちくりと胸が痛み悲しい気持ちがこみ上げる。

「彩乃、中に入りましょう」
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