再会したエリート警視とお見合い最愛婚
不穏な気配 蒼士side

 奈良野が消えてから、一週間が過ぎた。人を使って行方を追っているが今のところ手がかりはない。

 奈良野は今年三十八歳になる。両親は既に鬼籍に入っており、群馬の実家には奈良野の兄家族が暮らしている。


 ただ奈良野は兄を始めとした親族全員が没交渉になっていて、最後に連絡を取り合ったのは、両親の葬儀を行った四年前になるとのことだった。

 友人や恋人と付き合っていた様子はなく、仕事と家の往復の毎日。関りがあるのは内島議員の関係者だけという交際範囲が非常に狭い人物だった。

 誰かを頼っている可能性は低いため、ビジネスホテルなども当たったが、手がかりなし。

 奈良野を捜す一方で、蒼士がフランスに出向する前に見かけた、三枝の元秘書を当たろうとしたが、驚くことに彼女も突然仕事を辞めて、姿を消してしまっていた。

「手詰まりですね」

 本部で部下からの報告を受けた新藤が、悔しそうに顔をしかめた。

 彼と共に報告を聞いていた蒼士も、顔には出さなかったが内心強い苛立ちを覚えていた。

 重要参考人がふたりとも失踪。そのふたりはどちらも人の縁に薄く、いなくなっても心配する者が職場の人間くらいしかいない。

 その職場の同僚は、捜査願は出さずに、ただ仕事の穴を埋めるだけだった。

 とくに内島議員の関係者の反応は冷ややかなものだった。

『彼は以前から仕事が向いていないと悩んでいたようなんですよ。逃げ出したくなったのかもしれませんね』

 誰もが彼が自分の意志で姿を消したと信じている。

 しかし蒼士は、そんな単純な話だとは考えていなかった。

 捜査の妨げになる致命的な問題が、二度も続いた。蒼士の目が届いていないもっと小さな問題を入れたら、もっと多いのかもしれない。

 ここまで来ると、偶然とは思えない。

(捜査関係者が、情報を漏らしている)

 奈良野も元秘書も、自ら姿を消したのではなく、誰かに強いられたと考える方が自然だ。捜査の手が届かないように、先回りされたのだ。

 それでも確信に近いその考えを、口にすることは出来なかった。

 蒼士の考えは仲間を疑い、犯人側の人間だと決めつけるようなものだから。

 もし、思い違いだったら取返しがつかなくなる。

 もう二度と、仲間を疑い罪を突きつけるような真似はしたくないとずっと思っていた。そんな日が来なければいいと。

 現状を信じたくない気持ちが、蒼士を躊躇わせた。

「......人員を増やして引き続き、奈良野と元秘書の行方を追ってくれ」

「はい」

 新藤が会議室から出て行くのを、蒼士は重い気持ちで見送った。


 事態が動いたのは、それから三日後。

 久々の休日を彩乃とふたりで過ごしていたときのことだ。

 途中から誰かに見張られていることに気が付いた。どこに行っても、視線が付きまとうのだ。

 しばらく周囲を油断なく探りながら、彩乃の後を歩いていると、特定の人物が常に蒼士の視界に入る位置にいることに気がついた。

 どこにでもいるようなビジネススーツ姿の男で、東京駅ではよく見る姿で余程気をつけていないと記憶に残らない平凡な印象。

 けれど蒼士は確信した。
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