一度は諦めた恋なのに、エリート警視とお見合いで再会!?~最愛妻になるなんて想定外です~
(間違いなくつけられてる)

 あれは目立たないように、周囲に溶け込む為の擬態に違いない。

 思わず舌打ちをしそうになった。

 彩乃はまだショッピングを楽しみそうな様子だったが、強引にマンションに連れ帰った。

 彼女を怖がらせなくて理由を説明しなかったせいで、かなり困惑していたし、不満だったろうが蒼士に文句を言ったりはしなかった。

 彩乃は相手の事情を察し、自分の気持ちを飲み込むところがある。それは彼女の優しさだが、そのせいで自覚しないままストレスを溜めそうで心配だと以前から思っていた。

 それなのによりによって自分が彩乃に負担をかけてしまうなんて。

 情けなくて苛立ちが込み上げる。

 一方で頭の中では、急ぎ考えを纏めていた。

 先ほど跡をつけていたのは、蒼士を監視するものだろう。

 内部情報が洩れている疑いがある以上、捜査員の情報が渡っていても不思議はなかった。

 相手が誰かも何が目的かも確証はないが、テサラと内島議員の関係者である可能性が最も高い。

 相手は捜査を実質仕切っているのが蒼士だと知っていて、監視しているのだろう。

 蒼士は焦燥感に襲われ顔をしかめた。

 大物政治家が絡み、その秘書は現在行方不明と、混乱を極めている事件だ。

 彼らは警察関係者に対して手を出す程愚かではないと思っていたが、余程追い詰められているということだろうか。

 このままでは、ただ監視するだけではなく、何らかの妨害が起こる可能性を否定できない。

 彩乃の存在を知られてしまったのは問題だった。

 利用される可能性があるし、質の悪い人間を監視に使っている場合、一般人の彩乃に危害を加えるのも厭(いと)わないかもしれない。

 蒼士が常に側にいることが出来たら絶対に守るが、実際はそうもいかない。

 自分が不在のときに、自宅にやって来てしまったら......彩乃に用心するように伝えたとしても、彼女には全ての人を疑うなんて出来ないはずだ。

 困っている人が居たら、優しく声をかけるだろう。もしそれが罠だったとしても、彼女に見分けるのは無理だ。

 彩乃を危険にさらす訳にはいかない。

「間違いなく後を付けられていました。彩乃の顔も恐らく撮られたはずです」

 蒼士は悩んだ末に彩乃の父である滝川次長に連絡をして、つけていた人間を特定するまで彩乃を預かって欲しいと頭を下げた。
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