再会したエリート警視とお見合い最愛婚


(親切な人と出会えてよかった)

 おしゃべりをしながら移動して、日が暮れる頃に凱旋門に辿り着いた。

「わあ、きれい!」

 写真や動画で何度も目にしたことがある建造物だが、間近で見ると迫力が違い感動する。

 暗い夜に鮮やかにライトアップされる様子は、壮観だった。

 彩乃が周囲の観光客とともに素晴らしい光景を楽しんでいる間、蒼士は隣に居てくれた。 彼はあまり周囲の景色に関心はないようだった。多分パリで暮していると慣れてしまい、感動が無くなるのだろう。

 しばらく楽しむと、蒼士が問いかけてきた。

「ディナーの予定は?」

「予約は入れてないです。ホテルの部屋で食べればいいかと思って」

 我ながら無計画だと改めて思う。

「せっかくパリに来たのに味気なくないか? よかったらよい店を紹介するが」

「本当ですか? 嬉しいです。ひとりだと入り辛いお店もあるので」

 思いがけない蒼士の提案に、彩乃は喜びの声を上げる。

「え......ああ、そうだな」

 しかし彼は一瞬、戸惑いを見せた。そんな態度を怪(け)訝(げん)に感じたがすぐに気が付いた。

 彼は店を紹介するとは言ったが、一緒に食事をしようとは言っていない。

 それなのに彩乃はディナーの誘いだと思い込んでしまったのだ。

(うわ、私ってばなんて図々しい)

 恥ずかしくなって、かあっと頬が熱を持つ。

「ごめんなさい。私、一緒に食事に行くと勘違いしてしまって、迷惑でしたよね......」

 慌てる彩乃に、蒼士がくすりと笑う。

「そんなことはない。俺から誘おうと思っていたところに、滝川さんから言われたからちょっと驚いただけだ」

「え......ほんとうですか? それなら、お誘いしたことでご迷惑をかけずに済んでよかったです」

 ほっとして胸をなでおろすと、蒼士の目が魅力的に細められた。

「見るからに奥手なのに、大胆なところもあるんだな」

「えっ? いえ、私そんなつもりじゃ」

「はは。分かってる。冗談だよ」

(うう......揶揄われてる)

 彩乃は頬を染めて蒼士から目を逸(そ)らしたが、楽しそうな彼の視線を感じる。

「さて。候補はいくつかあるが、帰り道を考えるとホテルの近くがいいかな」

「あ、私が宿泊しているのは、オペラ座近くのホテルです」

「分かった。それならあそこがいいな」
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