一度は諦めた恋なのに、エリート警視とお見合いで再会!?~最愛妻になるなんて想定外です~
 彼女の怒るというよりも深く悲しんでいる姿を見ていると、ありもしない考えが頭に浮かんだ。

(もしかして、俺と離れることを悲しんでいるのか?)

 けれど蒼士はすぐにその考えを否定した。

 それは蒼士にとって都合がいい、妄想だ。

 彩乃が蒼士と結婚したのは、単に両親に勧められたからではない。

 パリで彼女の生まれの事情を聴いた蒼士だからこそ分かる。

 彩乃は自分を大切に育て慈しんだ家族に感謝をしていて恩返しをしたいと思ってる。

流されたのではなく、彼女自身の強い意思を持って蒼士の元に来てくれたのだろう。

 実際彼女自身が見合いの席でも言ってた。

『それから、両親に安心してもらいたくて......』

 ついでのような言い方だったが、それが一番の理由だったのだろう。

 それなのにいきなり実家に帰れと言われたら......落胆し悲しくなるに決まってる。

 だから甘い考えは捨てなくては。

 そもそも蒼士は彩乃に自分の気持ち、彼女への想いを伝えてすらいない。

 彼女が蒼士との暮らしに慣れたら、伝えようと思っていたけれど、それは逃げでもあった。

 もし恋愛感情を伝えて、彼女が困ってしまったら......気まずくなるのを避けたかった。

 ようはまだ彩乃に受け入れてもらえる自信がなかったのだ。

 だから彩乃は蒼士の想いに気付いていない。

 でもこの件が片付いたら、今度こそ伝えよう。

 別居の件を謝り、そして改めてプロポーズをする。

 三年前、蒼士がどれだけ彼女に救われたか。忘れられずにいたのかを、正直に伝えよう。

 彼女が蒼士を男として見て、同じような気持ちを持ってくれるかは分からない。

 長く待つことになるかもしれない。それでもよかった。

 だから今は早くその日が来るように仕事に集中する。

 蒼士は改めて決意を固めたのだった。

 彩乃が不在の自宅は、色褪(あ)せたような寂しさがあった。

 彼女と笑い合いながら食事をして、ソファで眠ってしまった彼女の寝顔を見て和んでいた日々が懐かしい。

 ひとり暮らしにはなれているはずなのに、一度幸せを知ってしまったからか、胸が塞ぐような孤独を感じた。

 だからこそ、仕事に没頭した。

 部下と供に調査をし、膨大な資料を何度も見直す。

 証人がいないのならば、テサラ通信の経理データから、内嶋議員との関係を示す証拠を探すしかない。なにか見逃している点がないか、これまでの捜査資料を見返しているうちに、おかしな点に気がついた。
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