一度は諦めた恋なのに、エリート警視とお見合いで再会!?~最愛妻になるなんて想定外です~
 記録されている情報が変わっているのだ。

(まさか......誰かが情報を改(かい)竄(ざん)している?)

 しかし、情報を書き換えるのは、捜査本部の刑事でも困難だ。セキュリティの権限にはレベルがあり誰でも触れられる訳ではない。仮に削除をしても履歴が残る。

(この情報に触れられるのは、俺と新藤と......)

 画面を睨み考え込んでいると、ぽんと肩を叩かれた。

 気配がなく近づかれたことに、蒼士は驚き顔を上げる。

「北条、かなり煮詰まってるようだな」

 蒼士の後ろに佇んでいたのは佐藤だった。蒼士は僅かに息を呑み、作り笑いを浮かべる。

「はい。参考人は姿を消し、内島議員の関係者は、とにかく協力的ではありませんからね」

 内島議員は後ろ暗いからか権力を盾に逃げている。忌(いま)々(いま)しいが、完全に警戒されている状態だ。

「一度休憩した方がいい。飯はまだだろ?」

 佐藤に言われ時計を見ると午後一時を過ぎていた。

 もう一度会計データを確認したかったが、上官の誘いとあれば断れない。

 蒼士は上着を羽織り、佐藤の後をついて行く。

 警視庁近くの佐藤がよく利用する定食屋に入り、日替わり定食を注文した。

「最近はどうだ? 奥さんとは上手くいってるのか?」

「......ええ。問題ありませんよ」

 蒼士は違和感を覚えながらも、それを表に出さずに水を一口飲んだ。

(こんなときに、彩乃の話をするとはな)

 捜査本部の皆が煮詰まっている状況だからあえて仕事の話を外しているのかもしれないが、佐藤と彩乃のことを話す気にはなれない。

 それは捜査に行き詰まる焦燥感だけでなく、彩乃への独占欲も働いていた。

 婚約のきっかけになった上官にも、彼女のプライベートは知られたくない。あの優しい微笑みも可愛い寝顔も全て蒼士だけのものだ。

 もちろんそんな呆れるような独占欲は、内に秘めて涼しい顔をしているから、佐藤に伝わることはないけれど。

「彼女は仕事を続けているんだよな」

「ええ」

「滝川次長とはよく会っているのか?」

「いえ、最後に会ったのは先月です」

 佐藤はこうしてふたりで話すと、必ず彩乃につい尋ねてくるが、一番知りたいのは、滝川次長についてなのかもしれない。
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