再会したエリート警視とお見合い最愛婚
別居と不安

 蒼士と別居をして一カ月が経った。

 彼はときどき連絡をくれるが相変わらず忙しそうで、彩乃がマンションに戻れる気配は今のところはない。

 父に蒼士の様子を聞いてみたが詳細は知らないと言われてしまった。

 捜査二課はとくに捜査情報が秘(ひ)匿(とく)され、同じ課でも係が違えば情報を共有していないことは当たり前なことなのだとか。

 弁護士秘書という仕事柄、彩乃も守秘義務の重要さは分かっているから、それ以上聞くことは出来なかった。

 それでも蒼士が心配で、食事の差し入れくらいはしたいと、何度か提案をしたことがある。

 けれど残念ながら、やんわり断られていた。

『ありがとう。でも俺は大丈夫だから、彩乃は実家でゆっくり過ごしてな』

 とても優しくて、気を遣ってくれているのが分る声だった。

 でも蒼士は決して彩乃と会おうとはしてくれない。

(私があれこれ言うのは迷惑なのかな......電話もしない方がいいのかな)

 少なくとも、彼は彩乃と会えなくても寂しくもなんともないようだ。

 素っ気なくされないのは、彩乃が検察庁次長の娘だから。内心はうんざりしているのかもしれない。

 そう考えると、電話をするのも躊躇いを感じた。

 かといって連絡をしなくなったら、彼との繋がりが切れてしまいそうな気がする。何より忙しく任務に励む彼が心配で、彩乃は迷惑にならないように毎日メールを送った。

 蒼士の負担にならないように体を気遣う短いメールにし、返信がなくても気にしないように心掛けた。

(なかなか会えないのは辛いけれど、蒼士さんが頑張ってるように私も努力しなくちゃ)

 彩乃は、仕事や家事の手伝いにより一層力を入れて、寂しい日々に耐えていた。
 
< 64 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop