再会したエリート警視とお見合い最愛婚

 彩乃の勤務時間は、午前九時から午後六時までだ。

 多忙な時期は残業するが、担当弁護士の案件が落ち着いている今は、六時を回るとすぐに席を立ち帰宅する。

「お先に失礼します」

「彩乃、帰りなんか食べて行かない?」

 六時十五分に席を立つと、パラリーガルの夏(なつ)美(み)が声をかけて来た。

 百七十センチを超える長身に、彫が深いはっきりした顔立ちの正当派美人だ。

 彼女とは中等部からの付き合いで、共に付属の大学の法学部に進学した。

 彩乃の家にも何度か遊びに来たことがあり、両親とも何度も顔を合わせている。

 同じ法律事務所に入所したことで、仕事の悩みを相談したりしている内にますます仲が良くなった、彩乃の一番の親友だ。

「いいけど、夏美も終わったの?」

 夏美がついている弁護士は抱えている案件が多く、彼女はいつも余裕なくバタバタしている。彩乃と違い定時で帰宅できることは稀(まれ)だ。

「奇跡的に終わったの。こういう日はさっさと帰るに限る」

「たしかに」

 夏美と共にオフィスビルを出て、銀座のイタリアンレストランに向かう。

 その蒼士途中に母に遅くなるから夕食は要らないとメッセージを送った。

「蒼士さんに連絡したの?」

 スマホをいじる彩乃を見て、夏美がにやりと揶揄うような笑みで言う。
 
彼女には結婚して彼のマンションに引っ越ししたところまでしか話していないから、勘違いしているのだ。
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