再会したエリート警視とお見合い最愛婚
「運命なんて言ってないってば」

「恥ずかしがらなくていいじゃん。早く迎えに来てくれるといいね」

「......うん」

 夏美に散々揶揄われてしまったけれど、悩みを吐き出せたからか、レストランを出ることには大分気が楽になっていた。

「あーお腹いっぱい。まだ九時か......この後どうする? お店変えて少し飲む?」

「ごめん、今日は帰ろうと思って。早く帰るようにって家から連絡入ってたから」

 レストランを出てスマホを確認すると、父から帰りの時間を確認するメッセージが入っていたのだ。

「そっか。それならまた次の機会にしよう」

 夏美とは路線が違うのでその場で別れて、彩乃はJRの駅に向かう。

 途中、【今から帰る】と父のメッセージに返信をしておいた。

 路面店が並ぶ銀座の通りは賑やかで多くの人が行きかっている。

 仕事帰りの人も多いだろうに、疲れを感じさせず楽しそうだ。

 なんとなく周りの景色を眺めながら人の流れに合わせて歩いていた彩乃は、視界に飛び込んできた光景に驚き、思わずその場で立ち止まった。

「蒼士さん?」

 忙しく働いているはずの彼が、目の前のレストランのエントランスにいた。

 リニューアルして有名シェフがオーナーになったことで人気があるが、気軽には利用できる価格帯ではなく特別な日に予約をするような店だ。

 彩乃は誕生日のお祝いに一度だけ利用したことがある。

(蒼士さんが、どうしてここに?)

 透明感があるガラス扉のラグジュアリーなエントランスに、スーツ姿の蒼士は違和感なく馴染んでいた。

 しかも彼の隣には、彩乃の知らない女性が寄りそうように佇んでいた。

 シンプルなパンツスーツが、百八十センチを超える蒼士の目のあたりまである女性にしては長身で、羨ましくなるようなメリハリがあるスタイルを引き立てている。

 とても姿勢がよい女性で、サラサラの長い髪が流れる背中が美しい。

(誰なんだろう?)

 ドクドクと心臓が音を立てる。嫌な予感がこみ上げ、彩乃は何かに導かれるようにフラフラと蒼士の方に足を進めていた。

 彼に会ってなんて声をかけるのかは決めていない。

 けれど見て見ぬふりをして立ち去ることなんて、出来なかった。

 レストランの周囲は、整然と植栽が植えられており、エントランス周りは綺麗にライトアップされている。
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